≪2024年6月26日読了≫

この作家は最近落語がらみの作品しか書いていないのではないだろうか。落語とミステリーは相性がいい、とはよく言われることなので、ファンとしては嬉しい限りだ。そのかわりというか、他の作家の作品で落語ミステリーをとんと見なくなったのも寂しいい話ではある。前シリーズで登場した、落語好きの刑事である「サダキチ」が主人公の本シリーズだが、肝心の謎解きとなると、最終的には林家正蔵師匠となるので、前シリーズと似ているといえば似ている。ただ、こちらは、若手の女性刑事(やはり落語好き)の成長譚という側面もあり、楽しみ方がまた違う意味もある。

 

本作はシリーズ2作目である。今のところ3作目まで刊行されているようで、まだ楽しみは続く。

全3編の短編が収録されているが、前作で登場した女性刑事の視点で語られる物語が2編、サダキチ目線で語られる物語が1編という割合だ。女性目線での物語は、前作でもあったので、導入はスムーズだ。前作から、この女性刑事に関する描写が少々微妙で、読者として肩入れしづらい。作者として、読者がこの女性刑事に共感するよりも、客観的な立場でいる事を望んでいるのだろう。「切りそろえた前髪の高身長女性であるため、金時などと陰口を言われ、気が利かないという評判も多い」ということで、それをフォローするような描写もないため、少々かわいそうにもなる。ただ、この女性刑事は、落語好きではあるが、その落語とは講談社文庫で読む落語であり、実際の聴く落語や、見る落語については未経験という、随分と偏った落語好きだ。刑事になってから、サダキチの勧めで定席に足を運ぶようになり、噺家との出会いも果たすが、何を隠そう、私自身も、本を中心とした落語好きという意味では同じだ。私の場合は、ちくま文庫での「落語春夏秋冬」みたいな文庫だったが・・・。語り文化の芸なので、実際には、見て聴くのが基本とは思うが、読む落語もなかなかに面白い。文字面で、口調や仕草まで想像するのも、実に楽しい作業だ。

 

本作では泥棒ねたが多いが、特に表題作でもある「泥棒と所帯を持った女」の出来がよかった。何の関係もないふたつの事件が、妙なところからつながり、からみあって真相につながっていく。真相をつかむのは、いつも正蔵師匠だが、この安楽椅子探偵ばりの推理が、このシリーズ最大の見せ場である。これについては前述のとおり、前シリーズと全く同じなので、前シリーズのファンであれば、この楽しみを継続して楽しめるという訳だ。

 

落語ミステリーという実に狭いジャンルではあるが、他に書き手がいないような状態なので、この作家にはさまざま形で継続してほしい。以前のシリーズを止めて、次のシリーズに行くのもわかるが、以前のシリーズの続編も期待している。

 

★★★★★★★☆☆☆