≪2024年6月18日読了≫

大人気のシリーズも7冊にして完了した、『ビブリア古書堂の事件簿』。人見知りで奥手な女性主人公だが、本の事になると人が変わったように饒舌になるという設定で、本にまつわる謎を解いていく物語だった。そこで働く男性と、ゆっくりと人間関係を構築し、最後の7冊目で付き合うことになるという完結の仕方だった。その時に作者のあとがきで、スピンアウト作品も描いていきたいという言葉があったが、それきり忘れていた。ふと思い出して調べてみると、2018年からそのスピンアウト作品らしいシリーズが始まっており、すでに4冊を数えている。気づくのが少々遅かったかもしれない。

 

このスピンアウト作品は、二人結婚して7年が経過し、子供も本が好きというくらいの年齢になっている設定だ。夫婦でビブリア古書堂を経営している。本好きは娘に対し、店の本などから、その本にまつわるエピソードを聞かせるという展開で物語が進んでいく。

エピソードはやはり謎解きもので、本に関係する人たちの思い、欲望、企みなど、決してきれいなものだけではない感情までをも、巻き込んでいく様を描いていく。主人公のキャラが前作から踏襲されていて、本関連の謎解きは非常にスムーズ。説得力が高い。連作短編の作りだが、娘にエピソードを聞かせる発端になる部分を、短編の最後にもってきて、次作につなげる感じも、リレー小説のような楽しみがある。

 

前作では、主人公の内気な性格や、特殊な過程事情、さらに本を取り巻く狂気や犯罪など、陰鬱で重苦しいイメージが強いシリーズだった。本をとりまく狂気、つまり稀覯本の奪い合いや、それで儲けようとする投資目的の犯罪などを描いた物語をいくつか読んできたが、

前シリーズは、そのどれよりも陰鬱なイメージだった。確かに、本の奪い合いの、騙し、騙されをエンタメで描けば暗くなりようもないけれど、前シリーズも連作ミステリーであり、そこまで位イメージが付くのも変だとは思うが、私の印象ではそういうイメージだった。しかし、スピンアウトである本シリーズは、幸せは結婚をして娘も授かり、幸せが全面に出ているムードだ。本作に収録されている物語でも、犯罪関連や、稀覯本による狂気も登場するが、前シリーズとのムードとはまるで違う。

 

物語を愛し、その内容について楽しそうに、または情熱をもって語るシーンは、前シリーズから本シリーズまで通底して印章に残る。それだけでなく、本というその物に惹かれるという気持ちも、強く理解できる。この本のみならず、この20年ほど、本にまつわる物語は、ヒット作が多い。図書館もの、せどりもの、編集者もの、書店もの・・・。内容が素晴らしいのはもちろんだが、根底にあるのは、「本」が好きという人が、これらをヒット作にしてしまうほどの人数がいるという事なのだろう。デジタル化は世の流れだが、フィジカルにこだわる人も、また多いのだ。

 

★★★★★★☆☆☆☆