≪2024年5月31日読了≫

初めて読む作家だ。コンゲーム小説を調べていて見つけた作品。お金を取り戻す系のコンゲーム小説はよくあるパターンだ。ジェフリー・アーチャーの『百万ドルを取り戻せ』が筆頭。全く予備知識がない状態で読むのが、本当の作品との出会いだという気持ちもあるので、事前の情報はあえて仕入れずに読み始めた。

 

それにしても設定がぶっ飛んだ作品だ。近未来の池袋がメインの物語だ。タバコは禁止され、池袋には大規模はカジノが建設されている。国内のみならず、外資のホテルもひしめき、夜な夜なギャンブルに明け暮れる人々。闇煙草の流通し、さまざまな利権を欲しいままにしているのは、池袋警察署長の有我。カジノ皇帝との呼ばれるほどの権力を手に入れ、管内であれば、喫煙や殺人なども平気で実行する。実際、機嫌が悪いだけで、側近を銃殺することもあるという人物だ。ある売れない役者が、カジノで6憶のジャックポットを当てるが、難癖をつけられ、没収される。その事に憤慨した高校時代の仲間4名で、きっちり取り返すことにする。1円たりとも少なすぎず、1円も多くなく。4名のメンバーの中心は、いまや海外のマフィア家族となっている女性。彼女が計画を組み、資金のメインを提供する。小手調べ的な詐欺を成功させ、いよいよ本丸の有我だが、相手が相手なので、詐欺後も騙された事を気づかせてはならない。何としてでも相手を見つけ出し、命を取られることは間違いないからだ。そうして4名のコンゲームが始まる・・・。

 

読後の最初の感想は、作家が個人的な趣味で好き勝手に書いた作品、というものだった。設定がとんでもないので、リアリティなどは望むべくもないのだが、コンゲーム小説として大切な部分である、「騙されたと気づかせることない騙し」を目指すという設定は合格だ。しかし、残りの部分は残念な事が多い。まず、リーダーの海外マフィアの女が、財力、マフィア力がありすぎて、読んでいてしらける。こういう物語は、強大な相手に対し、弱小なチームが、隠密に、しかし大胆に進めるところが妙味なのであって、こう力が強い味方がいては、最初から正面攻撃すれば?という感じになってしまう。次に、肝心のコンフイデンンスの手口の詳細記述がない、というところ。UNOでの詐欺なのだが、最後の1ゲームについては説明があるが、その他については言及がない。消化不良である。

物語とは関係ないが、文体が特徴的だ。この作家の他の作品を未読なので、この作品だけなのかもしれないが、気どりすぎの文体、表現が多く、ひとくひとりよがりな印象だ。もう少しそぎ落とせば、ハードボイルド的に見えなくものが表現も、つまりは、「気の利いた言い回しになっている」と作者が勝手に感じている感がひしひしと伝わってくるようで、痛々しい。安全悪を倒す話なので、それなりにカタルシスは用意されてはいるものの、いろいろと残念な部分が目についてしまう作品だった。

 

★★★☆☆☆☆☆☆☆