≪2024年5月12日読了≫

コンゲーム小説を継続的に読むようになっているので、このジャンルの情報を探している時に本書を見つけた。元スポーツ記者の作家らしい。事情通が描く裏話的な要素を含んだ物語は説得力があるので、野球好きとしては期待したいところだ。

 

冒頭から、海外のスラム街で銃を突きつけられる場面がある。予備情報とはずいぶん違う印象だが、それは導入の部分のみ。主人公は、けがの影響で活躍できないまま解雇され、スカウトになった元選手。実際によくあるパターンだ。そのチームはギャラクシーというパリーグの球団名だが、その他の実在の球団名も多く登場している。裏工作を具体的に描いている九州の巨大資本球団は、さすがに「Q」という球団名になっていたが・・・。

 

スカウトに関しては、実際に過去、裏金や栄養費として多額の金品を渡していたり、それこそ裏社会のつながりを匂わせるような事件もあった。現在ではさすがにないと信じたいが、精錬潔癖な行為のみでスカウト活動が行われていると信じている者はいないだろう。

本書で描かれる世界も、新人スカウトが、その矜持と現実の間で、ほんろうされる物語だ。中心は、主人公の上司である、堂神チーフスカウト。60才を超える年齢だが、生ける伝説と化している人物で、過去のスカウト活動のエピソードとして、裏切った選手の生爪を剥がさせた、ヤクザと対等に渡り合った、などというデタラメとも本当とも取れる噂がある人物。他球団のスカウトをいかに騙し、出し抜くかだけではなく、新聞記者、選手の家族や高校野球の監督など、膨大な人脈を活用し、煙幕を張りつつ相手を陥れるがごとく、自分の優位にゲームを進めることができる男。近寄りがたいほど無口で、睨みつけるような視線を持つ、業界で最も恐れられている人物だ。チーム戦を標榜する堂神だが、部下たちは最近堂神に対し不信感を持ち始めている。秘密主義、スタンドプレイが過ぎると。そういう環境の中、主人公が仲間としてスカウトになったのだ。

 

スカウトとしての選手の抱え込みの実態や、他球団スカウトとの騙し合いのエピソードを綴りながら、主人公が堂神を通して学んでいくが、同時に堂神の怪しい動きにも気づく。堂神が他球団と通じており、その球団に移籍を企んでいるようだと。移籍の手土産として、超がつく目玉選手を移籍先に獲得できるように動いてもいるようだ。主人公は、秘密裡に調査を始める・・・・。

 

あくまで小説だが、この堂神のモデルとして野球好きなら誰もが思い浮かぶ人物がいる。昭和の、おおらかな時代だからこそ、許された存在だった。そういうロマンがこの小説にはある。いわゆるコンゲーム小説ではないが、十分楽しめる内容だった。

 

★★★★★★☆☆☆☆