≪2024年4月24日読了≫

30年ほど前、『法医学教室の午後』『死体は語る』などの法医学ものが流行し、読みまくった覚えがある。学生時代にも法医学の講義を受講したこともあり、興味ある分野だった。流行したことで、法医学も認識され、類する小説やドラマが作成されるなどして、現在では一般化したカテゴリーと言ってもいい。ミステリーとの相性がいいようで、法医学的見地から謎解きが行われるパターンが多いようだ。

 

本書は、法医学に昆虫学を加えた、法医昆虫学者として警察に協力する人物が謎解き役として活躍するシリーズで、本書は5冊目になる。天然系の天真爛漫な36才女性学者という設定だが、芯の強さも併せ持つ。今回の事件では、伊豆の離島が舞台である。発見されたミイラ化した死体は、あまり昆虫による毀損がなく、発見された場所にも、死体を巡る昆虫相が見られないことから、捜査は難航する。これまでの巻でもそうだったが、最初の捜査本部では、この昆虫学者の説に耳を貸すものはいない。捜査本部の見解とまったく違う学者の意見が正しいと証明されるに従い、法医昆虫学への見方が変わってくる。このあたりが、このシリーズのひとつの読みどころだ。遺体が移動されたことから、殺害場所を捜査する中、洞窟でさらに5体のミイラ化した遺体が発見される。そしてそこには、夥しい数の外来種のアリが巣くっていた。カルト宗教の集団自殺か。真相を追う、法医昆虫者に危険が迫る・・・。

 

この物語の主人公は、岩楯という離婚歴のある刑事だ。現地の若手刑事とタッグを組むが、学者も応援で島に入ってくる。岩楯とは何度も一緒に捜査している仲だ。この二人が軸となり物語が進むのだが、岩楯は被害者の足取りや、関係者周辺の捜査という刑事らしい捜査をメインに進め、学者は現場に残された昆虫相や、遺体を関係した野良犬に付いていた、外来種のアリ、そしてマツクイムシによる松の被害状況などから、死亡現場を捜査していく。この、それぞれの捜査進捗が、全く別のルートをたどりながら、最終的に同じ結論にたどり着く過程が実にスリリングだ。岩楯のような捜査を徹底的に描くならば、それは普通の刑事が活躍するミステリーで、もちろんそれで楽しめる作品は多いのだが、法医昆虫学者の知見がクローズアップされる本シリーズは、ミステリー小説の中で異色の魅力がある。随所にめぐらされた伏線とミスリードも巧みで、構成もしっかりしているので、読み手の気持ちを離さない。シリーズの中でも出色の出来ではないか。

 

これほど面白いシリーズだが、大きな評判になることはなかったようだ。やはり、死体に付くウジの細かい描写などを毛嫌いする人も多いだろうから、それが原因なのだと思う。個人的にはかなり推しのシリーズだ。

 

★★★★★★★★★☆