≪2024年4月8日読了≫

以前にも何冊か読んだことのある作家だが、昔の作家であることもあり、書店の店頭で目立って陳列されているという訳でもないので、継続して読まなかった作家だ。一部で非常に高い評価のある推理小説の書き手だったようだ。今回は、コンゲーム小説を探しているうちに本書に巡り合った。ひょんなことで、昔の知り合いに会うことになったような感覚で、ちょっと嬉しい。

 

かなり長い小説だ。普通の長編小説4冊分はある。しかし、読むのが苦にならない。

舞台は戦後間もない昭和23年。東大の学生4名が金融関係の会社を始めるところから始まる。正業だけでなく、むしろ手形詐欺株の詐欺をメインの目的である。天才と言われた中心人物はそのうち事故で亡くなるが、残ったメンバーのうちの一人が、天才の手口を引継ぎ、さらに天才的な悪の才能を発揮していく。常に細心の注意を払いながらも大胆不敵、金が目的でありながらも、どこか世の中を相手にゲームで勝とうとしているようにも見える。やり手と言われる検事との丁々発止もありながら、前例のない詐欺を成功させ続ける天才の運命は・・・。

 

長い小説ではあるが、詐欺の手口を仕掛けの部分からしっかりと描写してくれるので、全くだれるところが無いし、この小説が長くなったのも、その手口をいくつも連続で描いてあるから、という理由なので飽きるという事がないのだ。詐欺内容は、この時代だから通用したであろう内容が多いが、その事で興を削がれることは全くなく、会話の中に戦争の事柄が多いなどという事も併せればかえってリアリティが増すともいえる。

しかしながら、設定が昭和23年~25年、この小説が書かれたのも昭和30年代なので、さすがに感覚が現代を大きくずれている部分もある。特に女性の存在については、やはり昭和を強く感じさせる部分が多くあり、今であれば大きな批判があるだろうと推察できる。

 

コンゲーム小説を探して見つけた本作だが、コンゲームというよりはピカレスクロマンといったほうが近い。解説やあとがきにもある通りだ。コンゲーム小説であれば、騙される相手が、騙されて然るべき人物であることが描写され、うまく騙すことでカタルシスが発生するように描くのが常道だ。本書は、小説としての設定上、作者がこの詐欺師に会い、直接話を聞いて、そのことを記述している、という体裁のためかもしれないが、この詐欺師の人生を、俯瞰する感じで描写しているようにも感じる。そこが悪漢小説たる所以かもしれない。実在の人物をモデルにしているようだが、知恵を駆使した犯罪というのは、やはりどこか魅力的に映ることがある。犯罪小説ながら、そこにロマンを感じてしまうのは、罪なことだ。

 

★★★★★★☆☆☆☆