≪2020年7月10日読了≫

シリーズものは、途中で止めるのが苦痛だ。なだ続きがある、という状態で放っておくのが、どうも居心地が悪い。中には、それほど好みではない作品も、シリーズものであるが故、最後まで読み切ってしまうという事もあった。もっと多いのは、最初の頃の良さがなくなってしまい、魅力がすっかりなくなっているのに、シリーズとしては継続している、という場合。これも困る。

本作は、そういう例ではない。反対に、キャラクターも馴染んできて、より興味深くなってきている。このシリーズは、テレビドラマ化もされて、一般への認知が高いので、長いシリーズになっていくのだろうか。

 

出版不況と言われて久しい。小説はすっかり売れないジャンルになっているそうだ。そういった中、作家はどのような戦術で作品を生み出すのだろうか。もちろんここには、出版社の編集者の戦略が色濃く出るところであり、その依頼を受ける形で執筆する作家との共同作業だ。小説そのものが売れない、もしくはごく限られた話題性のある作品しか売れないとなると、残された手は、コミック化、映像化しかない。話題になれば、小説も売れるから、出版社は仕事になるし、映像化やコミック化は、原作者として作家にも大きなメリットがある。連作短編、それも全体の大きなテーマを持ちながらのそれは、テレビドラマにしやすい設定である事が、このスタイルは多い一番の要因だろう。つまり多くの作家は、執筆の最初の段階から、映像化の原作というつもりで書いているのではないだろうか。

 

4冊目となるシリーズだが、各短編作品での事件解決とは別に、シリーズを通した大きなテーマがある。これは今では連作短編の一般的な書き方だが、本シリーズでは、主人公のひよりの父親捜し、元刑事の宿命といったテーマがあり、前者については解決済み、後者について、徐々に進展しているといった状況である。幼少期に両親と死別などの境遇という重いテーマだけに、夏目自身の人生観なども重なって語られてゆく。

この作家は、連作の中で、人生観や、人間の価値観といった抽象的な事についてあぶりだしていくのが得意なようだ。中山七里という作家も、そちら系の説得が得意と思われるが、もっと直接的で伝え方もエネルギッシュだ。この作家は、もっとさりげなく、でもしっかりと伝える技をもっていると思う。

 

現段階で5巻まで刊行されているが、それが最終巻なのかを知らない。夏目の謎が解決されれば、このシリーズは必然的に終わりになるような気がする。楽しいシリーズだけに寂しい気もするが、こういった串刺しテーマをもつ連作短編は、好評だからと引っ張りすぎると、必ずつまらなくなるので、無理して続ける必要はないと思う。

 

★★★★★★★☆☆☆