2009-2-28

米国の金融危機に端を発した今回の経済危機はとりわけ大田区や川崎市などの機械工業関連の中小企業を直撃している。小生の知っている町工場も何軒かが会社を閉めざるをえない状況にある。ある程度の数の従業員を雇用しているところ、工場を借りているところ、昨年前半までにかなり設備投資をしたところなどが大変だ。1,2月の売上高が対前年で50%減というところは普通で、70%減も結構あるようだ。

2月2日には、経産省の「全国の元気なモノ作り中小企業300社」にも選ばれた大田区のプラスチック成形加工品製造業のM社が民事再生手続開始を申し立てた。この企業は、東北に2ヶ所の工場を設置し、中国でも現地法人を設立するなど積極的に業容を拡大して、平成20年3月期には年商約21億円をあげていたらしい。

さらに、この原稿を書いている最中の2月25日に、同じく「元気な300社」の1つで、かつて大田区の高成長企業でもあったI社が東京地裁へ民事再生法の適用を申請したというニュースまで飛び込んできた。同社は当初から光造形システム、3次元CAD・CAMで注目を浴び、ITを駆使した高い技術力が評価されていた。その後、大田区内での生産活動を卒業して新潟に立派な工場も建て、丸の内に本社を構えて従業員数を400名にまで拡大した。近年は自動車産業向けの金型製作に関するコンサルティングも行い、2007年12月期の年商は約104億9300万円と言われていたが主力先の大手自動車メーカーからの受注が著しく減少したことで、急速に資金繰りがひっ迫したらしい。

他方で、家族だけで働く小さな町工場(土地建物を所有している場合)や台東区や墨田区などに多い雑貨などの消費財を生産する小規模企業は、大変ながらも、まだ何とかなっているようだ。これらは影響が出てくるのが遅いのかもしれないが、やはり、自動車や精密機器・家電の大手が危機的状況になった時に真っ先に影響が出るのは、機械工業の集積地である大田、品川や川崎などの地域なのだろう。

わが国は基本的に多品種少量生産の方向に進んでいるが、機械工業においてある程度の人数を抱えて企業を成長軌道に乗せていくためには、量産的な仕事を取る必要がある。また、金型や試作などの多品種少量的な仕事も、よく考えれば(国内で生産するか否かは別にして)量産の生産活動を前提としている。量産の自動車産業がくしゃみをすれば、多品種少量の工作機械産業が真っ先に風邪を引く。半導体メーカーや液晶テレビメーカーが咳をすれば、半導体製造装置や液晶製造装置を作る企業が寝込む。量産の仕事と多品種少量の仕事は連関していることが多い。したがって、一見すると、自動車などの量産の仕事が少ない大田区において影響が深刻なのである。

このような不況の中で、下請仕事が中心で戦略の選択肢の少ない、受身の立場にある中小企業は、今や取引先1社に依存して売上を持続的に確保することも、1種類の仕事量だけで持続的に売上を確保することも困難である。特定の取引先・仕事の量は小さくなり変動幅は大きくなっている。したがって、取引先と仕事内容を多様化するなどして、こまめに小さな仕事でも何箇所から集めてきて、売上高を持続的に確保しなければならない。そのためには新たな取引先を探したり、初めての仕事をやる必要が出てくる。

そこで、取引先を見つけるためにも、新たな仕事をこなす生産体制構築のためにも、他企業との情報交換や連携が必要となるのである。変動の激しい多品種少量生産の時代においては、中小企業1社だけでは生きていけない。

2月に入ってある町工場の経営者から興味深い話を聞いた。経営が傾いた仲間の工場の設備を買い取り、それを置く貸工場を借り、その設備を動かす従業員も引き取ったというのだ。外国製の高度な設備もあったと聞く。経営が行き詰まったほうの従業者数は7名くらい、引き取ったほうは30名くらいの規模である。この時期、たくさん従業員を抱えて設備投資額も大きい企業の方が大変だと思うのだが、しっかりした企業理念と堅実な経営ビジョンを持つこの会社は、新規の設備投資も行っている。

このような一種のM&Aは産業集積地において時折耳にするが、このようなことが可能になるのも、当事者である二つの企業が日常的に交流し、仕事の上でもある程度連携していたからこそである。顔の見えるネットワークの強みと言ってよいかもしれない。「100年に一度」とまで言われる不況の中、産業集積から技術力ある中小企業が消えていくこともあろうが、このようなかたちでM&A的なことが行われることは、企業1社が消滅してもその企業のコア技術を体化した設備と人間は仲間の中小企業の中で生きていくことになるのだから、わが国のものづくりにとっては歓迎すべきことだろう。

また、別のある町工場は高額の3次元測定機などを各種取り揃えているが、これを仲間の工場に無料で貸したりしている。その一方で、大手メーカから受注する際に、例えば「5面加工機を持っていること」という条件がついている時は、これを保有している仲間と共同で受注するなどもしている。さらに、宇宙航空関係の仕事を受注するために技術力ある中小企業を探し出して連携を図り、お互いに守秘義務契約を交わして、メーカーからの認証を受けたりもしているようだ。この企業のいき方はある意味で「ものづくりにおけるサービス業的ないき方」なのかもしれない。中小企業同士のフラットな連携を前提に、多品種少量で超精密でしかも高度な品質保証を求められる機械工業系の仕事に対応する、というわけである。極端な話、今後は品質保証だけに特化する中小企業というのも出てくるかもしれない。

中小企業がこのようないき方をする場合、互いに自発的・自律的に交流を行い、連携を創り出していくこと重要となる。では、どのような連携や取引連関を創り上げていくべきだろうか。基本は、多品種少量生産に対応したものづくりを行うための連携ということである。量産の時代における企業城下町などの特定大企業を頂点とした生産ピラミッド型生産システムを前提とした取引連関・連携とは違うものを創り上げなければならない。

多品種少量生産の時代の連携は、「よいものをつくりたい」という価値観を共有している人たちによる連携がコアとなるべきだろう。ものづくりに傾倒し、これを天職であるかのように捉えている人たちによる連携である。本来、ものづくりの取引連関においては、発注する側は「よいものが欲しい・つくりたい」と思い、受注する側は「よいものづくりをしたい」と思うべきものである。二者をつなぐものは「よいもの」という価値観の共有である。取引連関において当事者たる企業がこの価値観を共有することでそれぞれの組織の中において、ものづくりに関する真っ当な知識が身体
化されていくのである。現在の大企業中心の上意下達によるコスト削減・品質管理至上主義的な生産システムにおいてはこれが一番欠けている。

このような連携の中で企業は「次工程はお客様」というだけでなく、「前工程が付加価値源」とも考えるべきだろう。その基本思想は「元から作る」というものである。これは必ずしも、全てを自分で作るという意味ではない。出来うる限り素材に近いところまで工程を遡って技術・技能を理解することによって、自分の担当する工程の付加価値を高める、ということである。そのためには自社の工程を流れるワークの本質を、のめり込むように徹底的に把握することが重要だ。各社がこのように行動することで取引連関の中で相互に「よいものづくり」という共通の価値観が出来上がっていくのではないだろうか。

特定の加工機能に特化したタイプが多い中小企業の連携は、そこに参加する企業がそれぞれ「自社でやること・育てるものは何か、他社に求めるものは何か」ということを明確に意識していなければならない。すなわち、それぞれの企業理念に基づいて、自社のコア技術をどう進化させていくかについての明確なビジョンを持っているということが前提となる。その上で、設備はどこまで、人はどこまで自社で持つか、受注するロットの範囲はどこまでか、他社に頼むのは何か、などを明確にしていくのである。このような企業理念にもとづいたビジョンをしっかり持つことが、同時に、この嵐が過ぎ去った後の、次回の不況を乗り切るための礎石を作ることにもなるのではないだろうか。

「足ることを知るものは富めり」(『老子』小川訳注、中公文庫、第33章)。「止(とど)まることを知れば殆(あや)うからず」(同、第44章)。
2009-1-31

いやーどきどきしますねえ。なにがって、もうすぐ本メルマガが100号!!
編集長は、きっと素敵な100号記念を考えてくれているでしょう。きっと、おそらく、たぶん・・・・

さて、もの国がきっかけとなってお知り合いになれた京都機械金属中小企業青年連絡会の顧問をしています。宴会にしか行かないので、あんまり役に立たない顧問なのですが、たまには、お世話になっている京都のお役に立とうと思い立ち、東京に行きます。私の話はともかく、色々なところで中小企業連携の事例になっている京都試作ネットの関係者が東京で一同に会します。ぜひ、お越し下さい。地元関西でも、これだけの関係者が集まって、話を聞く機会は少ないです。
景気の悪い今だからこそ、元気になる話と、連携を広げるためにもお出かけ下さい。詳細、申込みは、下記ホームページより。

京都試作フォーラム2009 in 東京 2月6日(金) 都道府県会館にて
→http://www.ki21.jp/sisaku/forum2009/index.html

17日は、大阪で、こんなの(「モノ作り中小企業 関西フォーラム」)のやります。
→http://www.kansai.meti.go.jp/3-5sangyo/sapoin/kansai_forum.html

農商工連携をヒントになにか対策を考えませんか

今年度、中部経済産業局で農商工等連携の審議委員を務めています。リーマンショック以降の世界経済の混乱は、単なる不況というよりは、大きな構造変化が進んでいるというようにも見えます。

日本のものづくりも、ある意味で大きな変革期に差し掛かっているといえるでしょう。自動車産業の凋落振りは、人員の削減など大きな社会問題になっていますが、その実態はかなり前から変化していたことが理解できます。2005年段階で、日系自動車メーカーの生産台数2000万台のうち、国内で生産されているのは総数の半分約1000万台。さらに国内で生産された台数の約半分が海外輸出向け。要するに日系自動車メーカーの生産台数の半分は海外工場のものであり、さらに全体の4分の1が海外市場での販売だということになります。

今回の不況以前から、すでに国内市場は少子高齢化の影響が出始め、縮小傾向にありました。また、海外工場の品質の向上などから、低価格車を中心に、近い将来、繊維産業や家電産業と同様、海外での生産、国内への輸入ということが主流になるであろうことは予想されていたことだったといえます。

もちろん、これほど激しく経済状況が悪化するとは誰も予想しえなかったことです。昨年の夏頃までに書かれた論文や記事などを読んでも、今となっては苦笑するしかない予測があふれています。(いかに経済学者や経済評論家が役に立たないかが露呈してしまったと自虐的に述べている人も多いが・・・・)

さて、農商工連携は、そうした日本のものづくりの一つの方向性を考える上でおもしろいのではと考えています。審査をしていると、様々な取り組みがなされていることがわかって、暗いニュースばかりの中で少し明るい材料を見出したような気になります。

以前、東北地方のある農家の方と話していて、「他の産業と比べてご覧、農業ほど、機械化や自動化、IT化、合理化が遅れている産業はないよ。機械化や自動化なんていうと、どうも農薬や消毒薬の大量使用とかと結び付けられて、悪いイメージがあるが、ぜんぜんそうじゃないのにね。ノスタルジーだけで農業を見て、それでいて安い輸入品と比較して、安全だけどその輸入品と同じように安いものなんていうのだから参っちゃうよ。その上、機械化、自動化するなだなんてさ。」と笑いながら言う方がいました。

台風シーズンの時、しばしば農家の方が水田の様子が心配だからと行って雨の中、出て行き、増水した川や水田で亡くなるというニュースを目にすることがあります。「田舎の人は馬鹿だなあと、都会の人は笑うのだろうな。でもね、いまどき、遠隔で水位の監視も、調節もできないんだよ。だから、出かけなきゃしょうがないんだ。」

確かにそういわれるとそうなのです。工業の優れたノウハウが、農業に生かされることなく、生産性も、労働環境も改善されないまま日本の農業は今まで来たのかもしれません。今こそ、工業で培ったノウハウや技術を農業に生かす時期に来たのではないでしょうか。こんな風にいうと、すぐに農業の工業化とか、農業工場とかがイメージされて、どうもマイナスの評価が多いのですが、そんな単純なものではないと思うのです。

農商工連携の事例で多いのは、地元の名産の野菜などを使って、新しい商品の製造販売を行うというもののようです。それぞれ個性があり、おもしろいのですが、いろいろ考えさせられてしまう事例もあります。
まず、大同小異、どこかで見たこと、聞いたこと、食べたことがあるなあという商品が多いこと。これはある程度仕方ないことなのでしょうけれど、市場調査が非常に重要になってきます。その場合、二通り分かれて、どうもマーケティング会社やコンサルタント会社にうまく踊らされてしまっているケースや、思い入れが強すぎて「ここまでやっているのだから、売れるはず」というようなケースが見られるようです。 次に、もともとの経営状況が良くない上に、経理などをきっちりやっていない中小企業や個人商店がけっこうあること。確かにやろうという意志があり、複数の企業や関係団体が協力する機運になっていることは分かるのだけど、今までの経理や経営がきちんとされていないと、帳簿などから「実行するだけの体力があるのだろうか」と不安視せざるを得なくなります。
最後に、これは一緒に委員をやらせていただいている農業関係の方が、いつも真剣に怒るのですが、どうも農業生産者の方たちの取り分が少ない。「どうせ捨てていたのものの活用だから、ただでもいい」なんて言う人がいると、「そういう考えでは、連携にならない」と批判するのですが、確かにその通り。今までのやり方がそうであったせいか、肝心の加工ノウハウなどは第三者に握られているというようなケースもあり、やはり「コアコンピタンスは自分で握らないと利用されるだけになる」というのは、農商工連携に限らず、重要なことな訳です。

ともあれ、今回の不況と経済構造の変化の中でも、私たちはその先を見て、考え、行動しつづけなくていけないわけで、その新しいきっかけに農商工連携がなっていけばと私は期待して、このお仕事をしています。

ネタはまだまだ全国に転がっているに違いありません。こういう時だからこそ、若手の経営者には複数の企業で、なにか新しい動きにチャレンジして欲しいですし、商工会や商工会議所などの団体の現場の職員の方には、アンテナを充分に働かせていただいて、ぜひ地方から新しいものづくりを生み出すきっかけを探していただきたいと本当に思う今日この頃です。
2009-1-31

本年度も早稲田大学井深大記念国際ホールで「北区未来を拓くものづくり表彰式・受賞企業研究発表会」(第4回)を早稲田大学産業経営研究所と北区との共催で開催した。三つの表彰部門のうち、新製品・新技術部門で6社、技能者・技術者部門で5名(うち若者枠1名)、地域協働・地域貢献部門では2社が登壇した。そこでは小生のゼミの学生たちが受賞企業・受賞者について書いた報告書をもとに企業を紹介し、それに応えて企業の方達がスピーチを行った。

金融危機に端を発した経済混乱の中で、今回の表彰企業は規模の小さなところがどのようにして生きていくかのお手本を示すかのようであった。より正確には、規模の小さいところだからこそ生きていくことが出来ることを示す事例が多かったと言える。

そのパタンは三つある。まず第一に、北区に典型的な小さな開発型企業。いわゆるファァブレス企業もある。第二に、社内にユニークかつ高度な生産技術をコア技術として保持している企業。これらは機械工業集積密度の高い大田区の企業に勝るとも劣らない実力を持っている。第三に、職人的な技能・ノウハウをコア技術に頑張る企業。家族で頑張る生業が多い。以下では、報告書を一部抜粋しながら、そのいくつかを紹介しよう。

開発型企業の代表例としては、(株)エスマックと電子磁気工業(株)が挙げられる。このうちエスマックは、船舶冷却水固液分離装置を開発して受賞した。これは冷却用に取り込んだ海水と混入したクラゲ等の固体浮遊物を分離する装置で、分離した後のクラゲは生きたまま海に戻される。機械科出身で海運や造船に関連した商社に勤務し、オイルフェンスやタンカーの洗浄装置等の海洋汚染防止機器を企画し製作してきた経営者により考案された装置である。

同社は2000年に創業された従業員4名の会社である。ビルの1室で、経営者が考案したオリジナル商品の企画・販売、船舶・産業機械のエンジニアリングや関連した装置や材料の販売を手掛けている。同社は産学協同等も積極的に活用して製品開発を行い、製造は外部である。例えば、JAXAのロケットエンジン燃料噴霧器を応用開発した超微細ミスト発生ノズル。これは従来の噴霧ノズルに比べ、より微細なミストを発生させることができるため、今まではノズルに詰まってしまって出来なかった薬剤等の散布が可能になる。これを院内感染防止用の加湿器やアスベストの固形化工事に使うノズルとして商品化している。最近では断熱・遮熱効果のあるガラスコーティング材料の開発も行っている。とにかく次から次へと開発を行う会社で、経営者は「製造業は創造業」という。

もう一方の電子磁気工業は、3次元ガウスメータで受賞した。電子磁気工業は磁気応用装置のトップメーカで、この製品は磁界強度を3次元ベクトルで見えるようにした測定器である。近年、モータは携帯電話のなかにある超小型モータのように小型化が著しい。このモータのなかに組み込まれた、さらに微小な磁石の磁気を正確に測定するためには検査プローブの開発にも苦労する。同社で開発したプローブの先端には磁気を計測する3個のホール素子が組み込まれている。

同社は1957年に創業され、米国から導入された磁気応用技術を独自に進歩させて、様々な磁気応用分野の装置を開発、製品化してきた。この3次元ガウスメータの前身である1次元ガウスメータは同社が国内で初めて製品化し、これがガウスメータのJIS規格になったという。従業員数86名の開発主体の会社で、製造はほとんど外で行っている。磁気を入れ、磁気を抜く技術に精通した経営者は正に磁気が見えるかのような人物である。

次に、ユニークかつ高度な生産技術をコアに頑張る企業として、(株)内村製作所と(有)フジテックが挙げられる。内村製作所は、高性能な超重量用キャスターの開発などにより受賞した。同社のキャスターは回転性の良さと荷重性に優れている点に特徴があり、半導体工場や自動車工場で部品の搬送ワゴンを支えるキャスターとして多くの工場で使用されている。表彰対象となった超重量用自在型キャスターは、直径150mmの車輪で許容荷重が800kgという強くて軽いキャスターだ。他社の同サイズ製品の2倍から3倍の重量にも耐えられる上に、初動性や旋回性にも優れている。

同社は元々は高度な技術を誇るプレス加工の会社であった。ダイヤモンドコーティングした絞り型で、かなり肉厚の鉄板を何回か絞ってプレスする。こうして作られた部品がキャスターを支えるところに使われている。金型製作と絞り加工をコアにした優れた生産技術を活かして製品を作る、大田区タイプのものづくり系企業の経営者は「日本には資源がないから、技術力で勝負しないとね」と言う。

もう一つ、面白いコア技術を持つ企業がフジテックだ。経営者(62歳)とその子息が働くこの会社は、フレキシブルマイクロ波導波管製造の熟練加工技術で受賞した。この導波管は地上デジタル放送、いわゆる地デジ施設には必要不可欠だ。にもかかわらず、マイクロ波導波管のうちフレキシブル導波管という、自在に形を曲げられる導波管を製造出来るのは、国内では同社だけらしい。フレキシブル導波管はその希少価値から1メートル4万円するという。

経営者は以前いた会社でこのフレキシブル導波管の製造に成功し、その後これを製造する専用機械を買い取って独立した。この専用機械、原理はそれほど複雑ではないが調整が難しく、保有していても使いこなせない代物だ。この機械を動かすところを見物させていただいたが、幅10ミリ前後のフープ材(主に真鍮)を折りたたむようにして凸型にして、それを矩形に巻いていき、細長い筒のような形が出来上がる。その際、補強のために銅線を一緒に巻き込ませて後で除去する。完成した矩形の筒に出来た空洞をマイクロ波が通ることになる。周波数によってこの矩形のサイズを変える。この導波管は東京タワー等の鉄塔や自衛隊の船舶、テレビ局の中継車など、アンテナと通信機を繋ぐ様々な場面で活躍している。建物などに合わせて導波管を設置する際、直線の繋ぎ合わせだけではどうしても隙間が出来てしまう。そこでフレキシブル導波管が必要になるわけだ。現在、経営者はこの技術を子息に移管中だ。

北区には職人的な技能・ノウハウをコア技術に頑張る企業も少なくない。中でもユニークなのが、技能者・技術者部門で受賞した(株)酒井造花製作所と志賀食品製造所だ。酒井造花製作所は、歌舞伎や演劇等、我が国の伝統的舞台で使用される造花の製造を手がける会社である。歌舞伎座や国立劇場・新橋演舞場・帝国劇場・明治座・京都の南座・福岡の博多座等など、北は青森から南は沖縄まで、舞台の監督・美術家からの様々な注文に対し伝統的な技術で的確に応えている。経営者は三代目だ。

現場で働いているのは、経営者夫婦と高齢の男性1名およびパートの女性5名ほどである。皆熟練技能の持ち主ばかりだ。造花は舞台ごとにオーダーメイドで作られる。作業は、舞台美術家から渡された、セットのおおまかな完成イメージが描かれた配置図に基づいて行われる。和紙を型抜きし、染料で染め上げる。花びら一枚、元から作るのである。そうしてできた花や草を針金で組み合わせ、それぞれ木や枝につけてから枝振りを整える。数段階にわたるほとんど手作業の工程を熟練と根気でこなして、桜・山吹・牡丹・もみじ・菊・藤・すすきなどを作り上げる。花の種類は100以上になる。知らない花は「図鑑で調べて作る」という。

造花は本物に似ているから良いというわけではない。本物を舞台に置いても舞台装置としては効果がない。「客席から見てイメージできるように作る」ことが一番重要なのだ。「デフォルメして作るその中にリアリティがある」という正に歌舞伎役者の演技と同じ原理でこの造花も創作されているようだ。

志賀食品製造所は、40代の経営者を含めて2名で、値段よりも美味しさを追求した納豆を地道に作り続けている。経営者は先代から手作り納豆の技術を継承してきたが、特に神経を使うのは納豆の味の決め手となる「発酵」だそうだ。季節や天候の違いによって発酵時間や醗酵室の温度・湿度を小まめに調整する。「発酵時間の都合でほとんど寝る間もないこともある。だけどおいしい納豆を作るためだからね」と言う。

ある有名サイトで「ひと粒ずつ食べたくなる。ぜいたく納豆」というキャッチフレーズで、同社の納豆を完全予約販売したことがある。北海道産の大豆を使ったこの納豆は、大粒の「つるの子大豆」を使ったものが1パック90g3パック入り1セットで1,650円、小粒の「すずまる大豆」を使ったものが、同じく1セット1,200円で、各300セット限定だったが、わずか1時間足らずで完売してしまった。このネット販売を通じて、本当に質の良いもの、美味しいものは高くても売れるということ確信した、と経営者は言う。小生もここの納豆を試食させていただいたが、これまでに食べた納豆とは比較にならないほど美味かった。

今回の事例は皆、付加価値を生み出す力を身につけた経営者が、むやみに規模拡大を狙わずに、工夫を凝らして身の丈のビジネスを地道に展開していくことの強みを見せつけるかのようであった。

以上、今年度の表彰企業の一部を紹介したが、学生たちが作った詳細な企業紹介の報告書は「平成20年度北区未来を拓くものづくり表彰 受賞企業概要」(平成21年1月、東京都北区産業振興課)にまとめられているので是非ご一読いただきたい。