2006-1-31

 1月24日、早稲田大学井深大記念国際ホールで「北区未来を拓くものづくり表彰式・受賞企業研究発表会」を産業経営研究所と北区との共催で開催した。表 彰部門は三つあり、新製品・新技術部門では5社、技能者・技術者部門では5名、地域協働・地域貢献部門では4社が選ばれた。
 表彰式に先立って受 賞企業・受賞者を対象に小生のゼミの学生達がインタビューを行い、企業紹介のパンフレットを作成した。表彰式では学生達がそれぞれの企業を紹介し、それに 応えて企業の方達がスピーチを行った。さらに、(有)清田製作所の清田茂男社長と小生とが対談を行った。以下では受賞した企業や人の概要と清田社長につい て記したい。
 まず、新製品・新技術表彰は以下の5社である。
 ジャパンプラス(株):J-1ボックスの開発。バイエル社のウレタンフィルム
(高 い伸縮性と強度を有する)を使用して精密機器などを確実に包み込んで梱包(上下二枚で包み込む感じ)できるもので、腕時計でも眼鏡でも尖ったものでも大丈 夫だ。会社の壁には特許や実用新案の証書多数飾られている。コア技術は真空成型で、社長は機械いじりが大好き。ドイツの機械を買って操作していて指を欠い てしまったというほどだ。

 (株)千代田製作所:マイクロファイバー製塗布工具の開発。眼鏡を拭く布などに使われているファイバー繊維を 逆転の発想で使用した塗装用のローラー。水分保持力が非常によく、低粘度溶液を薄く均一にきれいに塗布できる。今春から東急ハンズで販売される。経営者は 典型的な下町の開発社長で、アイディアを構想するマンガ図が机上に散乱している。

 ファースト電子開発(株):人工視覚装置用無線電力伝 送・映像伝送装置の開発。失明者が見えるようになる国家プロジェクトのうち、一番ネックになっていたと言われる体内に電力と映像を無線で供給する部分の技 術開発。社長は大手電機メーカ技術者からのスピンオフ型創業者だ。表彰式では内助の功の奥様に感謝をこめて「愛しているよ」と言ってのけた人物である。マ ンションの一室で開発と製造を行っている。

 山陽プレス工業(株):DLCコーティングによる金型のドライ加工技術。無潤滑油用金型の開 発だ。産技研と日本工業大学の共同開発である。社長は、高度熟練工に認定された直後に亡くなったご主人の後を継いで会社を発展させてきた。携帯やデジカメ の筺体部分のプレス加工などで有名。

 (株)ムネオ・エス・エス・エックス:ブレーカー遮断装置「スイッチ断ボール」
の開発。家 庭のブレーカーのスイッチ部分に取り付けておき、地震時にブレーカが落ちる仕組み。震度別の設定も出来、水平を出す装置も組み込んでいる。しかも市販価格 2000円と安価だ。なかなかのアイディア企業で、面で押さえる家具転倒防止装置(スキマブロック)なども開発。現会長がアイディアを持続的に出すマン ションの一室のファブレス企業だ。

 技能者・技術者表彰は以下の5名である。
 (株)日本熱電子製作所の西山武さん。工業温度計 に使う外径0.15ミリのシース熱電対の開発と製造。微小部分や温度変化の激しい部位の測定に使われる。例えば米粒に刺して炊飯時の温度変化を測定する時 に使う。この熱電対を封止する際に大変な熟練技能が必要でコンマ1.5のシース材を顕微鏡でのぞきながら小さなヤスリで削り、これを溶接する。まさに米粒 に写経出来るかのような細密技能だ。

 (有)清田製作所の菊地友安さん。従来のシリンダー方式コンタクトプローブに代わって、ピン間隔 40ミクロンのコンタクトプローブを積層方式で作る技術開発。積層するための材料(金とベリリウムの合金)の選定、バネ機構の工夫、治具の製作などに苦労 したという。竹細工を営む岩手の実家でものづくりの洗礼を受け、上京して30年以上、清田さんの開発を支える最重要人物だ。

 山陽プレス(株)の青柳盛文さん。厚板の絞りなど金型のプロ。デジカメの筺体にも機械加工の届かない部分があり、これを熟練の手で作り込む。同社の創業者は戦前、中島飛行機の部品加工をしていたが、勤務歴50年以上の彼にもその技能が脈々と受け継がれているかのようだ。

  ファースト電子開発(株)の松名好生さん。前出の人工視覚装置の開発を現場で行った人物である。ちょうどソニーの井深さんの開発を支えた木原信敏さんのよ うな立場で、社長の無理難題の開発に対応することで腕を磨いてきた人物。アナログを知らなければデジタルは出来ないと気合いをこめて喝破する。

  中野雅章さん。とんぼ玉(珠玉)の若手作家。実家は海津屋という呉服屋で、その二階でとんぼ玉工房を開設している。龍や蝶や花などの極小かつ極細の模様が ちりばめられた帯止めや伝統工芸で使うための飾りなどを多数作っている。しなやかで長い指と呉服屋育ちの和装センスの良さが決め手だが、小さなノギスも作 業台にあった。
 地域協働・地域貢献は以下の4社。

 黒田機器:明治期英国人貿易商の洋館の景観保持。この洋館はいまだに事務所 として現役だが、その景観以上に素晴らしいのは同社の技術技能だ。寛永元年創業の同社は元々甲冑の加工をやっていたが現在は大型の長尺シャフトの研削・研 磨・仕上げ加工をミクロン精度で行っている。8メートルの旋盤と長尺のNC旋盤、70歳代の熟練工と工学部卒の若手現場工、など見所豊富な工場だ。発電所 のポンプも高層エレベータも同社加工のシャフトなしには動かない。

 (有)ヴィ王子(スワンベーカリー十条店):パンの製造・販売を通じ 障害者の雇用促進と自立支援。創業者の小島靖子さんは隣にある王子養護学校の先生だった。定年退職後、卒業生達のために、ヤマト財団が作ったFC、スワン ベーカリーの第1号店となる。製造工場、販売店および喫茶店で障がい者達が元気に働いている。彼らが遠くまで企業などに直接宅配もするところに特徴があ る。彼らの笑顔を見ると「ユーザに届けるのはパンだけではなく、暖かさも届けています」という小島先生の言葉が心に響く。とても美味しいパンだ。

  ダイナス製靴(株):工場見学の受け入れと靴に関する無料相談。「菊地武男の靴」として婦人靴では有名なブランドの会社だ。音無川公園沿いの住宅街に立地 することもあって、いち早く「見せる工場」化を図ってきた。そして中に入れば無料で靴の相談も受けられる。まさに工場自体がブランドそのものであるかのよ うだ。

 小山酒造(株):工場見学の受け入れと近代的な清酒造り。同社は23区で唯一の造り酒屋として有名だが、2001年までは麹菌が 棲みつくような古い酒蔵だった。しかし現社長は伝統的な酒造りには満足せずに、酒作りの化学的側面を追求し、醸造化学とコンピュータ管理を徹底させること により新しい工場を完成させた。

 以上が受賞された企業や個人の概要だが、共通点は「小さな会社と熱い思い」だ。今回の企業は皆小規模 で、マンションの一室もあれば工場兼住宅の二階建てもある。しかし経営者や従業員は開発のアイディアに溢れ、堅実な技能と技術を持ち、少ない口数でも熱く 語る人達ばかりだった。

 その代表例が清田茂男さんだ。彼の会社は2005年第一回ものづくり日本大賞優秀賞、2005年第30回発明大賞を受賞しており、エレクトロニクス産業において欠くことのできないものづくりをしている。彼の特徴は以下の三つだ。

  まず第一に、絶えざる自己革新により構造変化の波を乗り越えて前進している。昭和2年積丹生れの彼はニシン漁の盛衰を見て育つ。戦前は機械加工の技術を身 につけるべく上京し自転車工場に勤めた。戦後は自転車に見切りをつけハーモニカのリードを作る工場を始めるが、これも衰退し次にレコード針に進出した。こ こで高い評価を得たが、産業としては衰退の道にあったので、電子産業の方向に進み、電子回路測定用コンタクトプローブ(レコード針の応用)の分野でこれを (パイプ内径0.12の中に外径0.11の金属ボール入りスプリングプローブ、最小ピッチ0.19)作ることができるのは世界に2社と言われるまでにな る。しかし、回路の小型化が一層進展したため、伝統工芸の作り方にヒントに、従来とは全く異なる概念の積層型プローブ(最小ピッチ0.04ミリ)の開発に 乗り出し成功させる。これが上記二つの受賞につながった。構造変化のどの段階でもめげずに今の技術技能を展開させて次の上昇の波に乗ってきた。

  第二に、地に足の着いた考え方と開発三昧の暮らしぶりに注目したい。質素な生活と一体の開発といってもよい。彼の工場では最新鋭の高価な顕微鏡などに混 じって、蹴っ飛ばしプレスや古ぼけた自作の機械や治具が活躍している。加えて、ドライヤーやオーブンレンジまでが活用されている。そして二階の研究開発室 に登る木の階段は磨り減って黒光りしている。もう一方の木造階段はリフト付きで彼の住居部分へと導く。社長はいまだに従業員達が帰ると「しめしめ」と言っ て夜中まで研究開発にいそしむ。70歳までの睡眠時間は2時間、現在でも4時間というから驚きだ。

 このような彼を支えている理念は小難 しいものではない。「少年よ大志を抱け」、「東洋のスイスを目指せ」(小学校の恩師)、「見たり、聞いたり、試したり」(サトー・ハチロー)。いずれも若 い頃に耳にしたもので、その時々に出会った言葉を大切にして自分のものにしている。

 対談の終わりに、彼は「儲けるのではなく、汗をかい て社会に貢献する。付加価値を生み出さなければ貢献できないのだから、儲けは付いてくる」と言った。この時思い出したのは、「自分の頭で考え、汗をかいて 自分の手を汚して作らなければノウハウは蓄積されない」というソニーの木原さんの言葉だ。共に開発における身体化された知識を持つ人ならではの言葉であ る。変わりゆく産業の中で貫かれているものは変わらぬ経営姿勢と日々更新されてきた身体化された知識だ。