2005-11-30
今年5月に大田区京浜島にあるムソー工業 という企業を 訪問した。昭和25年に西品川で先代が創業した材料試験片(テストピース)を作る会社で、経営者の尾針輝男さん(60歳)夫婦と従業員数名が働いている。 従業員は皆、熟練工である。主要設備は、日立精機などの大型MC3台、ワイヤカット放電加工機2台、放電高速細穴加工機1台、平面研削盤、NC旋盤、大型 のプレーナー型帯鋸盤2台(金属裁断用で長尺のは2500のものもある)、横型帯鋸盤2台。この他に、旋盤、フライス盤、平面研削盤、ボール盤などの汎用 機もある。汎用機から特殊加工機までを、従業者数に比して、大量に取り揃えている工場である。 このようなテストピースを作る企業は、大きな産業集積の
ある地域には必ず1~2社存在するようだ。規模拡大は難しいが、ものづくりのための重要なサポートインダストリーの一つである。その中でも、この会社は大
型の材料試験片の製作で客先の評価が非常に高い。とりわけ、マグネシウム、チタン、タンタル、ニッケル基金合金、タングステン、モリブデンなど各種多様な
材料を取り扱い、素材本体に影響が極力少ない加工ノウハウを蓄積している点は高く評価されている。しかし、近年、大手企業のシュミレーション移行により、
大型試験片の市場は衰退している。このため、これまで50年以上にわたって蓄積してきた大型試験片製造の技術・ノウハウを大型機械部品の加工へ活かそうと
している。
また、最近は金属材料の加工という本業に加えて、大型プランターの植栽・維持管理の副業や太陽光発電に関する産学協同研究等 の環境事業も展開している。同社の工場二階には中庭があって、このプランターを使用したきれいな植栽がある。玄関の鉢植えに加えて建屋周りの植樹・花栽培 なども素晴らしく、殺風景になりがちな埋立地工業団地の街並みに潤いを与える工場でもある。このため小中学生の体験学習にもよく利用されている。
尾針社長は、この京浜島の工業団地形成史にも詳しく、貴重な歴史写真も撮影・保存されている。この写真を見せて頂きながらお話をうかがった後、小生が非常 に大きなものからテストピースを切り採る時はどうするのですかと聞いたところ、「鵜飼さん、最近面白い写真を撮ったよ。まだ世の中にこんな職人がいるんだ ね」と数枚の写真を見せていただいた。そこには、以下で述べるような「割り屋」という職人が作業する姿があった。
その写真で行われてい たのは、26トンのFC200材で出来たアンカー(沈錘)の解体である。単体の大型構造物を製作する時には鋳物が使われることが多い。しかし、これを解体 する時、機械工場に持ち込んで切断機などで切断するということが出来ない場合、そのもののある場所に出向いて解体しなければならない。さらに、最大級の 「割り機」を苦労して現場に運び込んでも、このアンカーのように機械に載らないものもある。
そこで登場するのが、この解体を請け負う「割り屋」と呼ばれる人達である。彼らは渡り職人のように、全国津々浦々からお呼びがかかると飛んでいって作業をする。昔はこんな仕事がたくさんあったようだが昨今はかなり少なくなったという。
作業は2人一組で行う。一人はヘルメット、大きな防塵マスク、皮の手袋、作業服の上に前掛けをした重装備のいでたちである。彼はこの鋳物に専用の固定具に ドリルを付けて穴を明け、そこに楔を入れていく。その際、金属の割れやすい目のような箇所を見つけるのに長年の経験と勘がいるようだ。そしてもう一人は上 半身裸でねじり鉢巻、黒皮の手袋、作業ズボンに前掛け、というスタイルである。彼が、埋め込んだ楔の頭を「牛殺しの木」と呼ばれる頑丈でしなりのある柄の 大きなハンマーで、微妙なコントロールをしながら強烈な一撃を加えてひびをいれて解体していく。いったん打ち出したら1000回ぐらいは連続して打ち込む のだそうだ。
この作業はとても危険で、ハンマーで楔の頭を打つ時、芯が少しでもぶれると楔の片が飛ぶ。それはまさに鉄砲玉と同じで、殺 傷能力がある極めて危険なもののようだ。それが自分に向かって飛んでくることもしばしばで、写真で見ても命がけの傷跡がいくつもある。もう一人の相棒との 間には防護壁として分厚いベニヤ板が立てられて、これを境に二人の仕事が同時進行するようだ。
ハンマーを打ち下ろす方の作業は、とにか くすごいパワーの要る仕事なのでなまじの体力では出来ない職種だ。結構いい手当てが取れるという。この写真に登場した人は、現在66歳とのことだが、どう 見ても50歳ちょっとぐらいにしか見えない。体つきは大相撲の魁皇をそのまま体重90kg(推定)くらいに縮小コピーした感じである。若い時は70キロの ダンベルを片手で頭の上まで持ち上げることが出来たという。まさに、いわゆる3KにO(重い)を加えた3KOの仕事と言えよう。
第35 回で、挟みゲージの最終的な精度を出す78歳の熟練工の話を書いたが、ものづくりにおいて物凄く精密な作業を行う時、人間の手の技能を頼りにすることが多 い。同じように、機械でも手に負えない物凄く大きなものを相手にする作業においても人間の手がその拠り所となることが多いようである。これは高層ビルの足 場鳶や重量鳶の作業を考えると一番合点がゆくだろう。
われわれは、先端技術を支えるものは、手の技能に代表されるような身体化された知 識であること、そして人間の身体は科学技術や経済社会と同じテンポで成長するわけではなく、歴史的に退化する場合もあることを再確認する必要があろう。ま た、われわれは先端技術だけで生きているわけではないのだということもあらためて認識しておくべきだろう。このようなところにあらゆる生業の存在理由があ るではないだろうか。(ここで書いた割り屋の仕事に関する文章は、ムソー工業(株)代表取締役 尾針輝男氏より頂いた解説文と画像を参照した)。
また、最近は金属材料の加工という本業に加えて、大型プランターの植栽・維持管理の副業や太陽光発電に関する産学協同研究等 の環境事業も展開している。同社の工場二階には中庭があって、このプランターを使用したきれいな植栽がある。玄関の鉢植えに加えて建屋周りの植樹・花栽培 なども素晴らしく、殺風景になりがちな埋立地工業団地の街並みに潤いを与える工場でもある。このため小中学生の体験学習にもよく利用されている。
尾針社長は、この京浜島の工業団地形成史にも詳しく、貴重な歴史写真も撮影・保存されている。この写真を見せて頂きながらお話をうかがった後、小生が非常 に大きなものからテストピースを切り採る時はどうするのですかと聞いたところ、「鵜飼さん、最近面白い写真を撮ったよ。まだ世の中にこんな職人がいるんだ ね」と数枚の写真を見せていただいた。そこには、以下で述べるような「割り屋」という職人が作業する姿があった。
その写真で行われてい たのは、26トンのFC200材で出来たアンカー(沈錘)の解体である。単体の大型構造物を製作する時には鋳物が使われることが多い。しかし、これを解体 する時、機械工場に持ち込んで切断機などで切断するということが出来ない場合、そのもののある場所に出向いて解体しなければならない。さらに、最大級の 「割り機」を苦労して現場に運び込んでも、このアンカーのように機械に載らないものもある。
そこで登場するのが、この解体を請け負う「割り屋」と呼ばれる人達である。彼らは渡り職人のように、全国津々浦々からお呼びがかかると飛んでいって作業をする。昔はこんな仕事がたくさんあったようだが昨今はかなり少なくなったという。
作業は2人一組で行う。一人はヘルメット、大きな防塵マスク、皮の手袋、作業服の上に前掛けをした重装備のいでたちである。彼はこの鋳物に専用の固定具に ドリルを付けて穴を明け、そこに楔を入れていく。その際、金属の割れやすい目のような箇所を見つけるのに長年の経験と勘がいるようだ。そしてもう一人は上 半身裸でねじり鉢巻、黒皮の手袋、作業ズボンに前掛け、というスタイルである。彼が、埋め込んだ楔の頭を「牛殺しの木」と呼ばれる頑丈でしなりのある柄の 大きなハンマーで、微妙なコントロールをしながら強烈な一撃を加えてひびをいれて解体していく。いったん打ち出したら1000回ぐらいは連続して打ち込む のだそうだ。
この作業はとても危険で、ハンマーで楔の頭を打つ時、芯が少しでもぶれると楔の片が飛ぶ。それはまさに鉄砲玉と同じで、殺 傷能力がある極めて危険なもののようだ。それが自分に向かって飛んでくることもしばしばで、写真で見ても命がけの傷跡がいくつもある。もう一人の相棒との 間には防護壁として分厚いベニヤ板が立てられて、これを境に二人の仕事が同時進行するようだ。
ハンマーを打ち下ろす方の作業は、とにか くすごいパワーの要る仕事なのでなまじの体力では出来ない職種だ。結構いい手当てが取れるという。この写真に登場した人は、現在66歳とのことだが、どう 見ても50歳ちょっとぐらいにしか見えない。体つきは大相撲の魁皇をそのまま体重90kg(推定)くらいに縮小コピーした感じである。若い時は70キロの ダンベルを片手で頭の上まで持ち上げることが出来たという。まさに、いわゆる3KにO(重い)を加えた3KOの仕事と言えよう。
第35 回で、挟みゲージの最終的な精度を出す78歳の熟練工の話を書いたが、ものづくりにおいて物凄く精密な作業を行う時、人間の手の技能を頼りにすることが多 い。同じように、機械でも手に負えない物凄く大きなものを相手にする作業においても人間の手がその拠り所となることが多いようである。これは高層ビルの足 場鳶や重量鳶の作業を考えると一番合点がゆくだろう。
われわれは、先端技術を支えるものは、手の技能に代表されるような身体化された知 識であること、そして人間の身体は科学技術や経済社会と同じテンポで成長するわけではなく、歴史的に退化する場合もあることを再確認する必要があろう。ま た、われわれは先端技術だけで生きているわけではないのだということもあらためて認識しておくべきだろう。このようなところにあらゆる生業の存在理由があ るではないだろうか。(ここで書いた割り屋の仕事に関する文章は、ムソー工業(株)代表取締役 尾針輝男氏より頂いた解説文と画像を参照した)。