2005-11-30
師走です。走らねば・・というわけで、今月は、網走、札幌、高松、山形と駈けずり回ります。「いいですねえ」と言われるのですが、仕事が終わったら移動、移動ですから、かなりの体力消費です。でも、2005年も最後の一ヶ月。走ります!
「製造業は、よくできた長男のようなものだった。」私は、よくそう行政関係者に話すことがある。特定の産業を除けば、戦後、一貫して日本の製造業は、行 政、特に地方自治体の手をあまり煩わすことなく、成長しつづけてきた。対照的なのは、商業であって、商店街組合などを形成し、行政に対する要望も、影響力 も強くかった。商工会議所や商工会を、「商業会議所」、「商業会」などと皮肉っぽく呼ぶ人がいるのも、そのせいだろう。
ところが80年代以降の円高や海外生産の本格化、さらには90年代に入ってからの中国の成長によって、このよくできた寡黙な製造業が変調をきたし始めたのだ。 90年代から2000年代はじめにかけて、著名な学者や官僚の一部にも、「製造業は中国に任せて、日本は頭脳労働だけをすればいい」という乱暴な意見を述 べる人が増えた。つまり、製造業は国内で経営を継続しようとするから、困難さに直面するのであり、優秀で廉価な人材が豊富な中国に移転しなさいという主張 だったのだ。 こうした意見が、著名な学者や中央官僚たちから出たものだから、やはり一部の地方自治体の役人たちも色めき立ち、製造業の中国進出を支援す る動きに出たのは、記憶に新しい。製造業の誘致など過去の話で、どんどん外に出て行ってもらって、金融やサービス業、IT関連産業がこれからの地域経済の 牽引役なのだと喧伝した。
さて、21世紀も5年が過ぎた。今年は、いろいろな面において潮目が変わる時期だったと記憶されるだろう。「好景気になった」というのではなく、潮目が変わったのだ。良い悪いではない。
そうした潮目が変わったきたことを感じさせるのが、地方自治体の企業誘致条例ブームだ。大都市近郊の都市が、今までのむしろ公害対策から製造業を郊外に追い出す方が良いという姿勢から、積極的に製造業を誘致しようという姿勢に転換してきた。
「誘致したいのは本音だが、それよりも今ある企業をどう押しとどめるか、それが大きな課題だ」とある自治体職員は話す。新たな企業に進出してくれなどという贅沢は言わない。それよりも、既存企業がこれからもその場所で操業してくれることが大切だと言うのだ。
「二社ほど、中規模の製造工場が閉鎖されると聞き、両社の了承を取って、東京まで行き政府機関の支援ももらって、転売先を探した。もちろん製造業企業だ。 立地的にも、かなり関心を持ってもらったのだが、最後は土地価の問題で成立せず、悔しい思いをした」と語るのは近畿地方のある自治体職員だ。閉鎖された跡 地は、結局、住宅と商業施設の建設用に転売されてしまい、製造業に利用してもらいたいという自治体の思惑はならなかった。「しかし、地方自治体でも、努力 すれば、ここまでできるんだという自信にはつながった。何とかして、これ以上の製造業減少に歯止めをかけたい」と意欲を話す。
なぜ、こ こへ来て急に自治体、それも今まであまり誘致などに熱心でなかった大都市近郊の自治体が誘致に乗り出したのか。簡単に言えば税収の減少である。製造業の工 場が、住宅や商業施設に変われば、税収に大きな影響が出るのだ。特に住宅地に変われば、固定資産税などが大きく減少してしまう。
もちろんそのこ と自体は、最近変わったことではない。大都市近郊の自治体を焦らせているのは、2007年問題に代表されるように、団塊の世代の一斉の退職である。大都市 近郊の大都市の税収構造は、居住する勤労者の個人税収に大きく依存している。退職してしまうと、その個人税収が大きく減少するのだ。
なんとしてでも税収の減少を食い止めたい。そう考えていくと、行き当たったのが製造業の工場撤退を食い止めるということだ。
「税収だけではなく、雇用の減少も地域経済に大きなダメージをもたらす」と中部地方の自治体職員は指摘する。仮に500人規模の工場が撤退した跡地に、大 型商業施設が建設されると、ほぼ同程度の雇用が創出されるという。ただし、大きな違いがある。製造業の工場の場合、500人のうち大半が正規雇用の労働者 だが、商業施設の場合は、パートやアルバイトなど非正規雇用の労働者が大半なのだ。マンションや住宅の場合は、雇用は全く失われることになる。「短期的に は、工場がなくなり環境が良くなったように思えるのだが、雇用がなくなった地域に、今後、将来があるのだろうか。」
「工場の誘致や、既 存製造業の支援に使う金があれば、急増する高齢者のための福祉に回せという人が多いのも確か。」誘致策を検討するある地方自治体職員は打ち明ける。「特に 団塊の世代よりの上の世代は、自分たちに関係する福祉などに予算を振り分けるべきだと主張してくる。また、左派の人たちは大企業優遇に繋がることに予算を 出すなと批判してくる」と苦笑いする。
今後、東京、名古屋、大阪といった大都市圏は、急激に高齢化が進む。確かに福祉に対する需要が伸びること は確かだが、ではその原資はどこに求めるのか。製造業など誘致するのは止めて、福祉に重点的に予算を振り向けろという主張は、一見、市民の支持を受けやす いが、では将来、その予算をどこで確保するのかについては全く無策だ。
もちろん、自治体間で競い、焦る気持ちばかりが先にたってコス ト・パフォーマンスを計算せずに優遇策を策定する傾向も否定できない。「聞かれれば、優遇策があることと回答するが、実際に企業が製造拠点をどこにするか というのは、市場との近接性や、物流などについてが重要で、最後の最後に優遇策があったよ、ラッキーというのでは」とある企業の関係者は言う。しかし、一 方で「優遇策もない、職員は説明にも来ない、では進出しても歓迎されないのでは後々面倒だと評価するのも確か」と続ける。
来年には、か なり都市で優遇策が出揃うことだろう。都市間の企業の誘致合戦は、静かに激しくなるに違いない。地方分権の流れが明確になり、地方自治体それぞれの独創的 な誘致施策が生まれてくれば、それはそれで日本の経済を活性化する一助にはなるに違いない。右へ倣え式の誘致施策ばかりなら、それは日本の経済のたそがれ を象徴したものと記憶されるだけになるだろう。
今月号は、中村主任研究員が担当しました。
師走です。走らねば・・というわけで、今月は、網走、札幌、高松、山形と駈けずり回ります。「いいですねえ」と言われるのですが、仕事が終わったら移動、移動ですから、かなりの体力消費です。でも、2005年も最後の一ヶ月。走ります!
「製造業は、よくできた長男のようなものだった。」私は、よくそう行政関係者に話すことがある。特定の産業を除けば、戦後、一貫して日本の製造業は、行 政、特に地方自治体の手をあまり煩わすことなく、成長しつづけてきた。対照的なのは、商業であって、商店街組合などを形成し、行政に対する要望も、影響力 も強くかった。商工会議所や商工会を、「商業会議所」、「商業会」などと皮肉っぽく呼ぶ人がいるのも、そのせいだろう。
ところが80年代以降の円高や海外生産の本格化、さらには90年代に入ってからの中国の成長によって、このよくできた寡黙な製造業が変調をきたし始めたのだ。 90年代から2000年代はじめにかけて、著名な学者や官僚の一部にも、「製造業は中国に任せて、日本は頭脳労働だけをすればいい」という乱暴な意見を述 べる人が増えた。つまり、製造業は国内で経営を継続しようとするから、困難さに直面するのであり、優秀で廉価な人材が豊富な中国に移転しなさいという主張 だったのだ。 こうした意見が、著名な学者や中央官僚たちから出たものだから、やはり一部の地方自治体の役人たちも色めき立ち、製造業の中国進出を支援す る動きに出たのは、記憶に新しい。製造業の誘致など過去の話で、どんどん外に出て行ってもらって、金融やサービス業、IT関連産業がこれからの地域経済の 牽引役なのだと喧伝した。
さて、21世紀も5年が過ぎた。今年は、いろいろな面において潮目が変わる時期だったと記憶されるだろう。「好景気になった」というのではなく、潮目が変わったのだ。良い悪いではない。
そうした潮目が変わったきたことを感じさせるのが、地方自治体の企業誘致条例ブームだ。大都市近郊の都市が、今までのむしろ公害対策から製造業を郊外に追い出す方が良いという姿勢から、積極的に製造業を誘致しようという姿勢に転換してきた。
「誘致したいのは本音だが、それよりも今ある企業をどう押しとどめるか、それが大きな課題だ」とある自治体職員は話す。新たな企業に進出してくれなどという贅沢は言わない。それよりも、既存企業がこれからもその場所で操業してくれることが大切だと言うのだ。
「二社ほど、中規模の製造工場が閉鎖されると聞き、両社の了承を取って、東京まで行き政府機関の支援ももらって、転売先を探した。もちろん製造業企業だ。 立地的にも、かなり関心を持ってもらったのだが、最後は土地価の問題で成立せず、悔しい思いをした」と語るのは近畿地方のある自治体職員だ。閉鎖された跡 地は、結局、住宅と商業施設の建設用に転売されてしまい、製造業に利用してもらいたいという自治体の思惑はならなかった。「しかし、地方自治体でも、努力 すれば、ここまでできるんだという自信にはつながった。何とかして、これ以上の製造業減少に歯止めをかけたい」と意欲を話す。
なぜ、こ こへ来て急に自治体、それも今まであまり誘致などに熱心でなかった大都市近郊の自治体が誘致に乗り出したのか。簡単に言えば税収の減少である。製造業の工 場が、住宅や商業施設に変われば、税収に大きな影響が出るのだ。特に住宅地に変われば、固定資産税などが大きく減少してしまう。
もちろんそのこ と自体は、最近変わったことではない。大都市近郊の自治体を焦らせているのは、2007年問題に代表されるように、団塊の世代の一斉の退職である。大都市 近郊の大都市の税収構造は、居住する勤労者の個人税収に大きく依存している。退職してしまうと、その個人税収が大きく減少するのだ。
なんとしてでも税収の減少を食い止めたい。そう考えていくと、行き当たったのが製造業の工場撤退を食い止めるということだ。
「税収だけではなく、雇用の減少も地域経済に大きなダメージをもたらす」と中部地方の自治体職員は指摘する。仮に500人規模の工場が撤退した跡地に、大 型商業施設が建設されると、ほぼ同程度の雇用が創出されるという。ただし、大きな違いがある。製造業の工場の場合、500人のうち大半が正規雇用の労働者 だが、商業施設の場合は、パートやアルバイトなど非正規雇用の労働者が大半なのだ。マンションや住宅の場合は、雇用は全く失われることになる。「短期的に は、工場がなくなり環境が良くなったように思えるのだが、雇用がなくなった地域に、今後、将来があるのだろうか。」
「工場の誘致や、既 存製造業の支援に使う金があれば、急増する高齢者のための福祉に回せという人が多いのも確か。」誘致策を検討するある地方自治体職員は打ち明ける。「特に 団塊の世代よりの上の世代は、自分たちに関係する福祉などに予算を振り分けるべきだと主張してくる。また、左派の人たちは大企業優遇に繋がることに予算を 出すなと批判してくる」と苦笑いする。
今後、東京、名古屋、大阪といった大都市圏は、急激に高齢化が進む。確かに福祉に対する需要が伸びること は確かだが、ではその原資はどこに求めるのか。製造業など誘致するのは止めて、福祉に重点的に予算を振り向けろという主張は、一見、市民の支持を受けやす いが、では将来、その予算をどこで確保するのかについては全く無策だ。
もちろん、自治体間で競い、焦る気持ちばかりが先にたってコス ト・パフォーマンスを計算せずに優遇策を策定する傾向も否定できない。「聞かれれば、優遇策があることと回答するが、実際に企業が製造拠点をどこにするか というのは、市場との近接性や、物流などについてが重要で、最後の最後に優遇策があったよ、ラッキーというのでは」とある企業の関係者は言う。しかし、一 方で「優遇策もない、職員は説明にも来ない、では進出しても歓迎されないのでは後々面倒だと評価するのも確か」と続ける。
来年には、か なり都市で優遇策が出揃うことだろう。都市間の企業の誘致合戦は、静かに激しくなるに違いない。地方分権の流れが明確になり、地方自治体それぞれの独創的 な誘致施策が生まれてくれば、それはそれで日本の経済を活性化する一助にはなるに違いない。右へ倣え式の誘致施策ばかりなら、それは日本の経済のたそがれ を象徴したものと記憶されるだけになるだろう。
今月号は、中村主任研究員が担当しました。