2005-7-31

 台風明けに山形に出張しました。行きも帰りも、珍しく新幹線でした。朝、ホテルの外から子供たちの楽しげな声が聞こえてきて、眼がさめました。カーテン を開けると児童センターのプールにたくさんの小学生が泳いでいました。真っ青な空と、蝉の合唱と、カッと照らす太陽の光にいっぺんに目が醒めました。と いっても、こっちは丸々一日、屋内で会議の連続だったんですけど・・・

人材の二極分化

 JR西日本の事故も、すでに多くの人にとっては過去のことになりつつある。わずか数ヶ月であれだけの出来事が、忘却の方向に飛び去っていくのは、驚くばかりである。   あの事故からわずか1ヶ月しか経っていないある日のことである。大阪近郊のある駅でのことだ。昼過ぎの駅を大声で笑いながら改札口に進む一団を見かけた。 この4月に入社したばかりなのであろうか、紺色のスーツに身を包んだ若い女性が大半だ。よく見ると、JR西日本の紙袋を持ち、そして社員証を提示して改札 を通り過ぎている。駅のホームでも全体に広がり、一般の乗客のことなどお構いなしで、大声で話している。「車掌がさあ」「運転手は・・」

  この駅の近くには、JR西日本の社員研修所がある。普段から、時折見かけるこうした一団を、今まではなんとなくたるんだ研修だなあと見ていただけだったの だが、今回は怒りを通り越して、驚いた。駅には謝罪文が張り出され、新聞によれば「態度が悪い」と殴りかかられた駅員が出ているという時期である。

 実は、少し悩んだ末に、JR西日本の窓口にメールした。1週間ほどして、謝罪メールが届き、確かに指摘した一団はJR西日本の社員であり、以後、気をつけるようにしたいとの内容だった。

  さて、いつもなら「JRはいったい何をしているのだろう」とため息の一つもついて、お笑いなのだが、どうにも納得のいかない気分になった。それは、そもそ もあれだけの事故を自分の所属する企業が、つい一月ほど前に引き起こしたばかりなのに、乗客や一般の人がどのように見るだろうかと判断のつかない若手従業 員がいるという点だ。「この間、うちの会社では事故を起こして、人がたくさん亡くなりました。ですから、みなさん、社員として乗車する時は、乗客のみなさ んの迷惑にならないように気をつけてください」などと言わなければならないとしたら、研修所の担当者も気の毒な話だ。

 「いったいJR は、どんな採用の仕方をしているのだ。どうして、そんなレベルの低い社員が採用されるのか」とお考えになる方も多いだろう。しかし、JR西日本だけが特別 な採用方法をしているわけではないだろう。つまり、多くの企業で、こうしたレベル社員を採用せざるを得ない状況が生まれていると考えるべきだ。

  ある調査によると中途採用の募集人数に対する充足率は6割強だという。つまり、4割近くは、募集し、採用したいと考えているにも関わらず、適した人材がお らず採用を諦めていることになる。「採用したいが、欲しい人材がいない」と嘆く声が、確かに増えているような気がする。新卒採用でも、どうも同じような事 態が起こりつつあるようだ。

 製造業の中小企業では、製造現場の管理職候補が欲しいのだが人材が足りないという声を多く耳にする。そこで 指摘されるのは、工業高校、工業高等専門学校の卒業生のレベル低下である。「工業を勉強したいからと、工業高校を志願する学生はほとんどいない。普通科に 進学できなかったから、仕方なくという感じで、製造現場で働くことを希望しない卒業生も多い」とある中小製造企業の総務部部長は言う。「基本的な技術を身 に付けていない卒業生が多くて、この程度なら、工業科卒業に限定する意味がないと、普通科卒業にも門戸を広げたが製造現場を希望するのが多くて、その方が 良かったと考えている」という工場長もいる。

 いわゆる「現場」に、「求められている人材」がいないという事実をどう考えたら良いのだろ う。むしろ、逆になぜ、今まで「現場」に、「優秀な人材」が供給されてきたのだろうか。ロンドン大学名誉教授のロナルド・ドーア氏は、次のように説明して いる。(引用:『「日本的経営」の何が残るか』、学士会会報、2004年6月)「たとえば二十年前位までの、労働組合のブルーカラー出身の指導者、あるい はその企業の改善運動を指導したQCサークルの職長達はどういう人たちかというと、多くは学力的に非常に優秀であっても、家庭が貧乏で、中学あるいは高校 を出てすぐ働いた人たちです。今だったら彼等ほど頭のいい人は、余裕綽綽といい大学に入れるのですが、当時はやむを得ず現場の人間となりました。そういう 人たちがもう現場に入りません。」

 私の親戚にも、地方から大手企業の工場労働者として大都市に出てきた人がいた。もう数年前に定年に なった年代だが、かつて彼の家に遊びに言ったときに、その蔵書の数に驚いた覚えがあった。彼が優秀だったか、どうかは分からぬが、確かに年配の職人たちの 見識や知識に驚嘆させられることは、今でも多い。

 「現場の人材も区別して処遇する必要がある。自分から新しい技術や知識を吸収して、将 来的には工場で管理職になってやろうと思う人間と、与えられた仕事をそのままこなしていけば良い、昇進も昇給もそんなに望まないという人間だ。」「人材を 使い捨てにすると、企業が批判されることが多いが、最近の若い社員を見ていると、企業を使い捨てにしているんじゃないなのか。転職するというから、どこに 行くのかと聞いたら、契約社員で、その方が気楽だからと真顔で言われた。」それぞれ九州と東海地方の経営者が言う。
 
 「なぜちゃんと将 来のことを考えないのだろうと、他人ながら思ってしまう。自分の職業を考えれば、そういう考えない人がいるから成り立っているんだけど」とある人材派遣ビ ジネスの知人は言う。「明らかに二極分化が起こっています。むしろその差は、広がってきているのではないでしょうか。」

 「本当に工業、 ものづくりを学びたい若者がいるはず。うちはそういう人材を集め、育成していきたい。現在は、県立ということもあり、県内からの募集に力を入れているが、 これからは全国からでも希望者が移住してきてくれるくらいになりたい」と、ある地方の工業高校の校長は話す。座を一緒にしていた地元中小製造業の若手経営 者も「そうした卒業者を採用できるようにしたいなあ」と同調する。

 「いつの時代も2:6:2だ。」そう言うのは、若手の経営者である。 「その割合のうちの真ん中の6が今まで優秀過ぎたんだよ。上位の2には、管理職候補として、真ん中の6には、それなりの待遇を。最後の2は、いらないし、 なんなら機械化か外国人労働者で代替できるんじゃないだろうか。」

 それでなくとも若年労働者が減少していく中で、上位2割の人材の奪い 合いがこれから始まるのだろう。地方の工業高校が、ものづくりの学校として、その地位を確立し、スポーツと同様に全国各地から「ものづくり」を志望する学 生を集める。そんなことも、夢ではないのかも知れない。きっと就職率も上がり、レベルも向上することだろう。中小企業は、前半で述べたJR西日本のような 新人を採用する余裕はないはずだ。いかに必要な人材を確保するのか、地元の工業高校や高等専門学校も巻き込んだ形での対応策を考えてもよいのではないだろ うか。


 今月号は、中村主任研究員が担当しました。