今年は秋を実感することがなく、冬に突入しそうです。週末、仙台に行きました。道行く人の服装も、すっかり冬。広瀬川の畔を歩くと、落ち葉がつもっていて、かさかさと音を立てました。町にはクリスマスの飾り付けが輝いて、なんだか落ち着かない毎日です。
フィリピーノの看護師がやってくる ~ 外国人労働者を考える
台風の襲来に続いて、新潟を襲った中越地震。連日、災害のニュースに目を奪われることが続きました。そんな中、本来であれば、もう少し世の中で話題に上ったであろうことは、いつの間にか進んでいきました。
日本政府は、フィリピン政府との交渉の中で、フィリピン人労働者を介護士、看護師の分野で受け入れることを正式に表明した。今回、日本とフィリピンの間で 話し合いが続けられてきた自由貿易協定(FTA)交渉では、日本側の看護師・介護士の受け入れが最も大きな焦点だった。日本側は、従来からフィリピン政府 が求めてきたこれら受入に関して、次の条件で、受け入れることとしたのだ。(1)日本語の習得と日本の国家資格の取得すること。(2)特定活動ビザで 3~4年、日本に滞在できる。(3)国家資格取得後は就労目的ビザで長期在留できる。
今回の合意によって、早ければ来年度からフィリピン人の介 護士、看護師の受入が開始されることになったのだ。介護士、看護師の分野では、従来から人材不足が深刻化していた。24時間で、重労働なために、いわゆる 「3K」だと指摘する声も多かった。こうしたことに加えて、若年労働者の減少が、拍車をかけている状況にある。このために、病院や福祉施設、老人介護施設 などの経営者からは早期受け入れの要望が多くあった。一方、現場で働く介護士、看護師では、当然ながら反対の声も多かったのであるが、今回、日本看護協会 が容認の態度を見せたこともあり、政府も受け入れに進みやすくなったようだ。
外国人労働者に関しては、すでに二十年前から多くの議論が 繰り返されてきた。バブル期、若年労働者不足は深刻化し、財界の強い要請に対して、なし崩し的に「日系人」を「日本人」だという解釈を行い、大量に受け入 れた。また、「単純労働者を受け入れない」という原則は守るために、「労働者」を「研修生」と読み替えて、インドネシア、タイ、中国などから若年労働者を 農業、繊維産業などに受け入れてきた経緯がある。
こうした「読み替え」によって実際には労働者を、20年近く受け入れてきたのである。しかし、 実際には、そうした「合法的」な受入だけでは対応しきれずに、多くの「不法」労働者が働いている。現在、日本に定住し労働している外国人は、推定で約17 万人とされている。そのうち、不法滞在者は、4割を占めているとみられる。ドイツやフランスといった全体の労働者数に占める外国人労働者の割合が5%以上 になっている国々に比較すると、日本は低いと言える。しかし、日本の産業は、すでに相当に外国人労働者に依存していることは否定できない。
今回、介護士や看護師を受け入れることが決まったことは、従来の単純労働を中心とした「研修生」制度から、一歩踏み込んだことは確かである。特に注目すべ きは、今回、日本の介護士、看護師の資格を取得後は、在留期限延長の回数を限定しないとされている点である。一見、当然のように見えるが、当初三年在留 し、資格取得後に三年を二回延長すると、十年近くなる。生活の基盤が日本に築かれていくであろう。結婚や出産なども経験するかもしれない。そう考えると、 こうした制度の運用は移民の受け入れにつながっていくのだろうか。
少なくとも、私の周辺の研究者は、疑問を呈するむきが多い。ある研究者は、こ うした問題を端的に指摘した。「つまり、日本は労働不足を担当する経済産業省、厚生労働省と、移民問題などを考える外務省の調整が取られていない。だか ら、その時々だけの対応ですませてしまう。」師弟の教育問題などや、不安定な雇用条件下に置かれている日系人労働者問題や、「研修生」が3K低賃金職場か ら「脱走」、「自殺」するという言い替えだけで済ましてしまった「外国人研修生制度」などは、こうした対応が生んできたものだ。今回の介護士、看護師の問 題も、将来的に発生しうるであろう問題にどのように対応するのかが、明確ではない。
単純労働者および移民受け入れ反対の根拠は、社会保 障費や教育費が増大するというものである。ヨーロッパ諸国の例をみても、低賃金労働者となる単純労働者を海外から受け入れた場合、新たな低所得層を形成す る危険性があり、その場合、社会保障費が増大する。さらに、日本語を理解しない二世たちが急増すると、学校教育に支障を来すだけではなく、対応できる教員 や教材などの対応によって教育費が増加することが見込まれる。こうした総合的に経済効果を判断すると、若年男性で、日本での滞在期間は数年、結婚や家族呼 び寄せなどせずに帰国してもらうというのが、日本に取って最大のメリットだと言われている。これに基づいたものが、「外国人研修生制度」による「労働者」 受け入れ策だと言える。
情緒的なことを言うつもりは毛頭ない。しかし、今回のフィリピン人介護士・看護師受け入れは、こうした従来の考 え方から一歩、踏み出してはいないだろうか。医療現場などに詳しいある友人は、「看護師といっても、下働きのようないわゆる3K現場で勤務する人材を、海 外から受け入れようという考えだろう。しかし、フィリピンの医療現場の水準は高く、現地の経済状況が好転しないために、医師の資格をもっている人材が看護 師としてアメリカに流出している。日本は、彼らからすると治安も良く、給与水準も高い国であり、場合によってかなり水準の高い人材が流入する可能性もあ る」と指摘する。従来のような「単純労働者」と割り切れない部分に注意しなくてはいけないだろう。また、こうした日本にとって必要な外国からの人材を、受 け入れるための議論が尽くされているのだろうか。受け入れる時だけは、歓迎をし、後になって邪魔者扱いするようでは、先に挙げた「日系人」と同じ問題を発 生させてしまうのではないか。
介護士や看護師の問題は、決して、医療や福祉現場に特有のものではない。製造現場でも、ますます外国人労 働者の必要性が高まりつつある。2007年問題といって、製造現場でも団塊の世代が大量に退職する時代がやってくる。一方で、少子化は止まることを知らな い。今後、様々な分野で外国人労働者が参入してくるであろう。すでに、合法、不法を含め、数多くの外国人労働者が製造現場で働いている。「私は、千葉のマ チコウバで働いていました」と、バングラディッシュの町で喫茶店の主人に声をかけられたこともある。
地方から夢をもって数多くの若者が、都会に 働きにやってきた。そして、彼らが町工場の主人になり、あるいは企業の製造現場の責任者として、現在の製造業を牽引してきた。今、海外から多くの若者が、 日本に働きにやってくる。グローバル化する時代に、町工場は、企業の製造現場は、そして製造業はどのように変化していくのだろうか。
台風や地震報道のどさくに紛れて、あまり議論にならず官僚たちは、ほっとしていることだろう。しかし、そんなことでホントにいいのだろうか。
今月号は、中村主任研究員が担当しました。
フィリピーノの看護師がやってくる ~ 外国人労働者を考える
台風の襲来に続いて、新潟を襲った中越地震。連日、災害のニュースに目を奪われることが続きました。そんな中、本来であれば、もう少し世の中で話題に上ったであろうことは、いつの間にか進んでいきました。
日本政府は、フィリピン政府との交渉の中で、フィリピン人労働者を介護士、看護師の分野で受け入れることを正式に表明した。今回、日本とフィリピンの間で 話し合いが続けられてきた自由貿易協定(FTA)交渉では、日本側の看護師・介護士の受け入れが最も大きな焦点だった。日本側は、従来からフィリピン政府 が求めてきたこれら受入に関して、次の条件で、受け入れることとしたのだ。(1)日本語の習得と日本の国家資格の取得すること。(2)特定活動ビザで 3~4年、日本に滞在できる。(3)国家資格取得後は就労目的ビザで長期在留できる。
今回の合意によって、早ければ来年度からフィリピン人の介 護士、看護師の受入が開始されることになったのだ。介護士、看護師の分野では、従来から人材不足が深刻化していた。24時間で、重労働なために、いわゆる 「3K」だと指摘する声も多かった。こうしたことに加えて、若年労働者の減少が、拍車をかけている状況にある。このために、病院や福祉施設、老人介護施設 などの経営者からは早期受け入れの要望が多くあった。一方、現場で働く介護士、看護師では、当然ながら反対の声も多かったのであるが、今回、日本看護協会 が容認の態度を見せたこともあり、政府も受け入れに進みやすくなったようだ。
外国人労働者に関しては、すでに二十年前から多くの議論が 繰り返されてきた。バブル期、若年労働者不足は深刻化し、財界の強い要請に対して、なし崩し的に「日系人」を「日本人」だという解釈を行い、大量に受け入 れた。また、「単純労働者を受け入れない」という原則は守るために、「労働者」を「研修生」と読み替えて、インドネシア、タイ、中国などから若年労働者を 農業、繊維産業などに受け入れてきた経緯がある。
こうした「読み替え」によって実際には労働者を、20年近く受け入れてきたのである。しかし、 実際には、そうした「合法的」な受入だけでは対応しきれずに、多くの「不法」労働者が働いている。現在、日本に定住し労働している外国人は、推定で約17 万人とされている。そのうち、不法滞在者は、4割を占めているとみられる。ドイツやフランスといった全体の労働者数に占める外国人労働者の割合が5%以上 になっている国々に比較すると、日本は低いと言える。しかし、日本の産業は、すでに相当に外国人労働者に依存していることは否定できない。
今回、介護士や看護師を受け入れることが決まったことは、従来の単純労働を中心とした「研修生」制度から、一歩踏み込んだことは確かである。特に注目すべ きは、今回、日本の介護士、看護師の資格を取得後は、在留期限延長の回数を限定しないとされている点である。一見、当然のように見えるが、当初三年在留 し、資格取得後に三年を二回延長すると、十年近くなる。生活の基盤が日本に築かれていくであろう。結婚や出産なども経験するかもしれない。そう考えると、 こうした制度の運用は移民の受け入れにつながっていくのだろうか。
少なくとも、私の周辺の研究者は、疑問を呈するむきが多い。ある研究者は、こ うした問題を端的に指摘した。「つまり、日本は労働不足を担当する経済産業省、厚生労働省と、移民問題などを考える外務省の調整が取られていない。だか ら、その時々だけの対応ですませてしまう。」師弟の教育問題などや、不安定な雇用条件下に置かれている日系人労働者問題や、「研修生」が3K低賃金職場か ら「脱走」、「自殺」するという言い替えだけで済ましてしまった「外国人研修生制度」などは、こうした対応が生んできたものだ。今回の介護士、看護師の問 題も、将来的に発生しうるであろう問題にどのように対応するのかが、明確ではない。
単純労働者および移民受け入れ反対の根拠は、社会保 障費や教育費が増大するというものである。ヨーロッパ諸国の例をみても、低賃金労働者となる単純労働者を海外から受け入れた場合、新たな低所得層を形成す る危険性があり、その場合、社会保障費が増大する。さらに、日本語を理解しない二世たちが急増すると、学校教育に支障を来すだけではなく、対応できる教員 や教材などの対応によって教育費が増加することが見込まれる。こうした総合的に経済効果を判断すると、若年男性で、日本での滞在期間は数年、結婚や家族呼 び寄せなどせずに帰国してもらうというのが、日本に取って最大のメリットだと言われている。これに基づいたものが、「外国人研修生制度」による「労働者」 受け入れ策だと言える。
情緒的なことを言うつもりは毛頭ない。しかし、今回のフィリピン人介護士・看護師受け入れは、こうした従来の考 え方から一歩、踏み出してはいないだろうか。医療現場などに詳しいある友人は、「看護師といっても、下働きのようないわゆる3K現場で勤務する人材を、海 外から受け入れようという考えだろう。しかし、フィリピンの医療現場の水準は高く、現地の経済状況が好転しないために、医師の資格をもっている人材が看護 師としてアメリカに流出している。日本は、彼らからすると治安も良く、給与水準も高い国であり、場合によってかなり水準の高い人材が流入する可能性もあ る」と指摘する。従来のような「単純労働者」と割り切れない部分に注意しなくてはいけないだろう。また、こうした日本にとって必要な外国からの人材を、受 け入れるための議論が尽くされているのだろうか。受け入れる時だけは、歓迎をし、後になって邪魔者扱いするようでは、先に挙げた「日系人」と同じ問題を発 生させてしまうのではないか。
介護士や看護師の問題は、決して、医療や福祉現場に特有のものではない。製造現場でも、ますます外国人労 働者の必要性が高まりつつある。2007年問題といって、製造現場でも団塊の世代が大量に退職する時代がやってくる。一方で、少子化は止まることを知らな い。今後、様々な分野で外国人労働者が参入してくるであろう。すでに、合法、不法を含め、数多くの外国人労働者が製造現場で働いている。「私は、千葉のマ チコウバで働いていました」と、バングラディッシュの町で喫茶店の主人に声をかけられたこともある。
地方から夢をもって数多くの若者が、都会に 働きにやってきた。そして、彼らが町工場の主人になり、あるいは企業の製造現場の責任者として、現在の製造業を牽引してきた。今、海外から多くの若者が、 日本に働きにやってくる。グローバル化する時代に、町工場は、企業の製造現場は、そして製造業はどのように変化していくのだろうか。
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