国会に呼ばれた。参議院経済産業委員会というところで「下請代金支払遅延等防止法」(以下「下請法」と略)の改正案についての意見陳述をしろと言われて
出かけた次第である。昨年、公正取引委員会におけるこの法律改正についての研究会に参加していたので、法案を提出する政府側の立場を側面支援するかたちで
出るはめになった。
下請法は親企業たる大企業と下請中小企業との取引に関して、親企業が優越的な地位を濫用しないように規制する法律で、その上位法は独占禁止法である。法 の運用は公正取引委員会と中小企業庁が行っている。この法律は昭和31年に出来たもので、基本的に製造業をその対象としてきた。しかし、途中、中小企業基 本法における中小企業の定義の変更に対応して一部を変えただけで、その内容はほとんど改正されてこなかった。とりわけ、金型や治工具・設備機器などを製造 する中小企業の多くがこの法律の対象に該当せず、また近年ますます重要性を増してきた対事業所サービス業もその対象に組み込まれてこなかった点に問題が あった。そこで今回、金型の製造委託全般と一部の役務(ソフトウェア、番組制作、運送など)の委託取引を下請法の対象に追加する改正案が作られたわけであ る。
小生の意見陳述は以下の通りである(詳細は参議院のHP上にある議事録を参照されたい)。「わが国産業は国内的には量産から多品種少量へと生産体制を移行 している。中小企業がその中で生き残っていくためには量産対応の組織を改め、企業規模を小さくして、技術と技能・ノウハウを組み合わせて付加価値を生み出 していくことが基本である。自社製品開発やベンチャー企業という生き方はそのほんの一部で、多くの中小企業は部品の加工や製造といった下請的な仕事で生き て行かざるを得ない。しかも多品種少量と言ってもその内実は多品種変量なので、受注がゼロになることもある。だから、経営者も家族も老いも若きも現場で働 き、職住同居あるいは近接で働くという生業的な生き方で稼働率の低い時期を乗り切らざるを得ない。しかし一方で小規模にこそ勝機もある。多品種少量生産に おいては個人の持つ技術・技能・ノウハウに依存する部分が大きい。これは小規模な企業でこそ十分に発揮される。しかもその持ち主が経営者であるならばなお さら、思い切った企画や方向転換も即時的に意志決定出来る。これは製造業でもサービス業でも同じである。」
「このような状況から考える と、下請法の役割や意義はますます大きくなる。中小企業が生業として生き残りを図るならば、大企業との力の格差はますます開くからである。しかもこの生業 こそがわが国産業や企業の基盤である。産業や企業を政策によって作り出すことがなかなか難しいことは、ベンチャー創業が必ずしも成果を挙げていないことか らも分かる。優秀な企業も今ある生業の中から生まれてくると考えるべきであり、これらを企業規模格差から生ずる取引の不公正が守ることは国策として重要な 意義がある・・・(以下、金型やサービス業を加える意義を述べたがここでは省略)」
引き続いてこの改正法案に関連して5会派の議員から質問があった。基本的にはどの議員も改正に賛成である。しかし、平成13年に先駆けて独自の改正法案を提出し、今回の法案の元を作ったと自負する民主党の木俣議員は政府案の(大企業に対する)甘さを厳しく突いてきた。
彼の論旨の基本は「中小企業の取引をめぐる現状を考えると、今回の改正法案では甘すぎる。もっと多くの中小企業を対象となるようにすべきだ」というもので ある。とりわけ、「金型だけでなく、木型や治工具、あるいは専用自動機などを作る中小企業も対象に含めるべきだ」「規制の対象となる資本金規模の線引き に、1億円以上と以下の取引も組み込むべきだ」「産業の変化に対応して迅速に改正を行っていくべきだ」などの点は、法の運用における問題点を別にすると、 極めて同意できるものであった。彼の中小企業に対する現場感覚は法案を作成した官僚達よりも明かに優れていた。
残念ながら政府側(?) の証人の辛さで、小生は「中小企業の側に立つ人間としてはこれを救う法の網の目が細かければ細かいほどありがたいが、なにぶん法律の専門家達の論議で は・・・云々」と言わざるを得なかったが、民主党が改正法案を提出した平成13年当時、もし小生が議員であったならば何党にいても賛成の一票を投じていた と思う。
小生の考え方が本質的には民主党よりの立場に近かったのには個人的な理由もある。それは小生の父が経営していた町工場が被った手痛い体験に基づくもので、以下はその概略である。
昭和53年、長期化する受注低迷に悩んでいた父の会社(従業員数30名ほどのメッキ工場)に大きな仕事が舞い込んだ。化粧品メーカーA社が消費者サービス の一つとして金属製のコットンケース15万個を発注し、これを百貨店B社が落札した。この金メッキ部分を父の工場で担当することになったのである。契約段 階ではA社による銀行調査もありB社の担当者も来社した。ところが実際の契約相手はそのいずれでもなく、D社という個人工場であり、しかもD社とB社の間 にはC社というB社の系列業者が入った。しかし品質や納期に関してはA社とB社が強く関与した。
仕事は予定より1ヶ月も遅れてスタート したが納期の遅れは許されない。しかも初めてのタイプの仕事なのに、相手側から来たのはこの程度という予算を示した図面見積もりだけで、包装・箱詰めなど のメッキ屋としては未経験の作業も含まれていたので、当初から見積もりの甘さが懸念された。加工を開始して2日目に、単価が一般品の3分の1から4分の1 であることが分かった。甘い見積もりは生産速度の算定に原因があり、図面では分からないことであった。
また箱詰め包装に至っては未経験 のため全くのマイナス単価であった。現物を流し始めてから単価の改定交渉を申し出たが全く受け付けてくれない。生産は始まっていたので取りやめることも出 来ない。このような一発勝負の製品生産には必ず予算の誤りや工程のズレによる出費を伴う。こっちのミスもあれば発注者側のミスもある。問題はミスの全てを 小企業であるD社と弊社に背負わせてB社・C社は予定の利益を出す、というやり方なのである。こうすれば法外な安値でA社から受注しても自分達は利益を出 すことが出来るのである。
おかげでD社は倒産し、父の工場も500万円以上の赤字を出した上にD社の不渡手形を500万円抱える羽目に なったのである。B社に行っても、A社に行っても全く関係がないと突き放された。とくに許せないのはB社である。B社は予算を立てて品質と納期だけには強 く介入し、その執行は自ら手を下さずに系列企業にまかせ、系列会社は予算外の支出は全て下請に負担させてB社と自社の利益を守るのである。
この事件がダメージとなり父の会社は昭和55年8月に廃業することになったのである。残念ながら今回の改正法をもってしてもこのような事件の救済は出来な いと思う。すなわち、形式上は極めて小規模な中小企業(弊社)と中小企業(D社)との取引になっており、しかもその上の企業(C社)は「業として製造を 行っていない」サービス業だからである。B社がいかに巧妙に抜け道を作っていたかが推察される。となると頼りになるのは下請法の上位にある独禁法における 「優越的地位濫用の禁止」という条項である。しかし独禁法の運用は機動的ではなく、しかも下請側は報復措置を恐れてなかなか訴えることが出来ないので有力 な守護神とはならない。
中小企業にとっては守ってくれる法の網の目は細かければ細かいほどありがたい。しかし、いくら網の目を細かくし ても、「法の精神」に共感しない大企業が「法免れて罪無し」という発想で対応してくれば抜け道はいくらでも存在する。公正取引委員会も中小企業庁も法を整 備して全てが完了と思ってはいけない。大企業において採算性向上や事業再構築に伴う外注見直しの嵐が吹き荒れる中、下請法を遵守すべき大企業と法の番人の 「精神のあり方」が強く問われる。
下請法は親企業たる大企業と下請中小企業との取引に関して、親企業が優越的な地位を濫用しないように規制する法律で、その上位法は独占禁止法である。法 の運用は公正取引委員会と中小企業庁が行っている。この法律は昭和31年に出来たもので、基本的に製造業をその対象としてきた。しかし、途中、中小企業基 本法における中小企業の定義の変更に対応して一部を変えただけで、その内容はほとんど改正されてこなかった。とりわけ、金型や治工具・設備機器などを製造 する中小企業の多くがこの法律の対象に該当せず、また近年ますます重要性を増してきた対事業所サービス業もその対象に組み込まれてこなかった点に問題が あった。そこで今回、金型の製造委託全般と一部の役務(ソフトウェア、番組制作、運送など)の委託取引を下請法の対象に追加する改正案が作られたわけであ る。
小生の意見陳述は以下の通りである(詳細は参議院のHP上にある議事録を参照されたい)。「わが国産業は国内的には量産から多品種少量へと生産体制を移行 している。中小企業がその中で生き残っていくためには量産対応の組織を改め、企業規模を小さくして、技術と技能・ノウハウを組み合わせて付加価値を生み出 していくことが基本である。自社製品開発やベンチャー企業という生き方はそのほんの一部で、多くの中小企業は部品の加工や製造といった下請的な仕事で生き て行かざるを得ない。しかも多品種少量と言ってもその内実は多品種変量なので、受注がゼロになることもある。だから、経営者も家族も老いも若きも現場で働 き、職住同居あるいは近接で働くという生業的な生き方で稼働率の低い時期を乗り切らざるを得ない。しかし一方で小規模にこそ勝機もある。多品種少量生産に おいては個人の持つ技術・技能・ノウハウに依存する部分が大きい。これは小規模な企業でこそ十分に発揮される。しかもその持ち主が経営者であるならばなお さら、思い切った企画や方向転換も即時的に意志決定出来る。これは製造業でもサービス業でも同じである。」
「このような状況から考える と、下請法の役割や意義はますます大きくなる。中小企業が生業として生き残りを図るならば、大企業との力の格差はますます開くからである。しかもこの生業 こそがわが国産業や企業の基盤である。産業や企業を政策によって作り出すことがなかなか難しいことは、ベンチャー創業が必ずしも成果を挙げていないことか らも分かる。優秀な企業も今ある生業の中から生まれてくると考えるべきであり、これらを企業規模格差から生ずる取引の不公正が守ることは国策として重要な 意義がある・・・(以下、金型やサービス業を加える意義を述べたがここでは省略)」
引き続いてこの改正法案に関連して5会派の議員から質問があった。基本的にはどの議員も改正に賛成である。しかし、平成13年に先駆けて独自の改正法案を提出し、今回の法案の元を作ったと自負する民主党の木俣議員は政府案の(大企業に対する)甘さを厳しく突いてきた。
彼の論旨の基本は「中小企業の取引をめぐる現状を考えると、今回の改正法案では甘すぎる。もっと多くの中小企業を対象となるようにすべきだ」というもので ある。とりわけ、「金型だけでなく、木型や治工具、あるいは専用自動機などを作る中小企業も対象に含めるべきだ」「規制の対象となる資本金規模の線引き に、1億円以上と以下の取引も組み込むべきだ」「産業の変化に対応して迅速に改正を行っていくべきだ」などの点は、法の運用における問題点を別にすると、 極めて同意できるものであった。彼の中小企業に対する現場感覚は法案を作成した官僚達よりも明かに優れていた。
残念ながら政府側(?) の証人の辛さで、小生は「中小企業の側に立つ人間としてはこれを救う法の網の目が細かければ細かいほどありがたいが、なにぶん法律の専門家達の論議で は・・・云々」と言わざるを得なかったが、民主党が改正法案を提出した平成13年当時、もし小生が議員であったならば何党にいても賛成の一票を投じていた と思う。
小生の考え方が本質的には民主党よりの立場に近かったのには個人的な理由もある。それは小生の父が経営していた町工場が被った手痛い体験に基づくもので、以下はその概略である。
昭和53年、長期化する受注低迷に悩んでいた父の会社(従業員数30名ほどのメッキ工場)に大きな仕事が舞い込んだ。化粧品メーカーA社が消費者サービス の一つとして金属製のコットンケース15万個を発注し、これを百貨店B社が落札した。この金メッキ部分を父の工場で担当することになったのである。契約段 階ではA社による銀行調査もありB社の担当者も来社した。ところが実際の契約相手はそのいずれでもなく、D社という個人工場であり、しかもD社とB社の間 にはC社というB社の系列業者が入った。しかし品質や納期に関してはA社とB社が強く関与した。
仕事は予定より1ヶ月も遅れてスタート したが納期の遅れは許されない。しかも初めてのタイプの仕事なのに、相手側から来たのはこの程度という予算を示した図面見積もりだけで、包装・箱詰めなど のメッキ屋としては未経験の作業も含まれていたので、当初から見積もりの甘さが懸念された。加工を開始して2日目に、単価が一般品の3分の1から4分の1 であることが分かった。甘い見積もりは生産速度の算定に原因があり、図面では分からないことであった。
また箱詰め包装に至っては未経験 のため全くのマイナス単価であった。現物を流し始めてから単価の改定交渉を申し出たが全く受け付けてくれない。生産は始まっていたので取りやめることも出 来ない。このような一発勝負の製品生産には必ず予算の誤りや工程のズレによる出費を伴う。こっちのミスもあれば発注者側のミスもある。問題はミスの全てを 小企業であるD社と弊社に背負わせてB社・C社は予定の利益を出す、というやり方なのである。こうすれば法外な安値でA社から受注しても自分達は利益を出 すことが出来るのである。
おかげでD社は倒産し、父の工場も500万円以上の赤字を出した上にD社の不渡手形を500万円抱える羽目に なったのである。B社に行っても、A社に行っても全く関係がないと突き放された。とくに許せないのはB社である。B社は予算を立てて品質と納期だけには強 く介入し、その執行は自ら手を下さずに系列企業にまかせ、系列会社は予算外の支出は全て下請に負担させてB社と自社の利益を守るのである。
この事件がダメージとなり父の会社は昭和55年8月に廃業することになったのである。残念ながら今回の改正法をもってしてもこのような事件の救済は出来な いと思う。すなわち、形式上は極めて小規模な中小企業(弊社)と中小企業(D社)との取引になっており、しかもその上の企業(C社)は「業として製造を 行っていない」サービス業だからである。B社がいかに巧妙に抜け道を作っていたかが推察される。となると頼りになるのは下請法の上位にある独禁法における 「優越的地位濫用の禁止」という条項である。しかし独禁法の運用は機動的ではなく、しかも下請側は報復措置を恐れてなかなか訴えることが出来ないので有力 な守護神とはならない。
中小企業にとっては守ってくれる法の網の目は細かければ細かいほどありがたい。しかし、いくら網の目を細かくし ても、「法の精神」に共感しない大企業が「法免れて罪無し」という発想で対応してくれば抜け道はいくらでも存在する。公正取引委員会も中小企業庁も法を整 備して全てが完了と思ってはいけない。大企業において採算性向上や事業再構築に伴う外注見直しの嵐が吹き荒れる中、下請法を遵守すべき大企業と法の番人の 「精神のあり方」が強く問われる。