2003-5-31

 今年はメッキ業との関わりが多い。2月には北陸のメッキ業を視察し、3月にはメッキ業後継者座談会を司会し、5月には京浜島で開催されるメッキ業講習会 で講義をした。元メッキ屋の息子としてはやはりこの業界の人達と話している時が一番現実感覚が働く感じがする。以下は3月の座談会の要約である。
 この会は全国鍍金工業組合連合会主催の「若手経営者座談会」で、登場人物は以下の11名である。まだ父が社長や会長として実権を握っているところも多い。

 KS氏:36歳、埼玉県、2代目、従業員8名。大学卒業後同業他社で3年間修業。社員には身内も多く、彼より若い人はいない。普段は現場で作業している。

 IK氏:37歳、神奈川県、4代目、20名。文系大学卒後セールスマンを経て入社。入った途端に父が亡くなっていきなり社長に就き苦労する。

 HT氏:39歳、長野県、2代目、67名。彼の入社当時は40名で高齢化していた。現在は平均37歳と若返りを実現。

 IY氏:42歳、静岡県、3代目、13名。生まれる頃からの従業員や亡くなった父の兄弟などに囲まれて苦労しているが、子飼い社員も4~5名いる。

 OS氏:46歳、愛知県、2代目、40名。現在専務で、社員の意識改革に注力している。上(父)と下(社員)との間に立って苦労しするが徐々に実権を握りつつある。

 KH氏:38歳、福井県、2代目、145名。工学博士号取得後大手コンピューターメーカ研究所に勤務しDRAMなどの研究をやり、技術革新のスピードと方向性を目の当たりに実感する。その後入社し積極的な研究開発戦略を展開。

 SH氏:35歳、京都府、2代目、30名。高濃度の塩酸を使う酸洗装置の作業が大変。1名しかいない担当者が休みの時は彼が手伝う。明け方2時からの仕事になる時も。女婿の気楽さで社員の心をつかんでいる。

 MY氏:43歳、大阪府、3代目、10名。入社して20年になるが、彼より後に入ったのは3名だが、うち1名は弟、残り2名は彼より年上、と極めて高齢化が進む中で頑張っている。

 NK氏:30歳、岡山県、3代目、111名。大学を出て自動車部品メーカに4年間勤めてから入社。常務を2年3ヶ月務めた後今年1月からメッキ事業部門の社長に。上には会長(父)名誉会長(祖父)がいるが、経営はほとんど任されている。

 IH氏:29歳、愛媛県、2代目、15名。会社の中では一番年下で、言いたいこともなかなか言えない。以心伝心ではなくちゃんと言葉で社員に話をするべきだ、という点で父と対立することも。世代交代が急務と感じている。

 YT氏:50歳、福岡県、実質2代目、62名。女婿で積極的な戦略を展開している。研究開発助成金などもしっかり獲得してる。現在は基本に戻り徹底的な5S活動に取り組む。

  座談会ではまず一回り目は、参加者より創業からの経緯を技術的なことを織り交ぜて自己紹介してもらった。その後はフリートーキングなり、主として自分と父 の関係、ベテラン社員との関係、社内組織、社内教育の話などが話の中心となった。また、ISOや研究開発並びに国等施策の利用の仕方なども話題となった。

  経営者である父との関係を象徴しているのが実印をどちらが持っているかであった。父から実印をもぎ取っている人も結構いて、この父との関係が前半のメイン だった。父との意見の相違に悩む後継者も多い。何か新しいことをやろうとしてもすぐ会社の利益になるのかと言われる、とこぼす後継者もいた。また、従業員 の側には全て社長(=父)任せな体質のところもあり、組織改革といってもまず父との関係から考えなくてはいけないところに辛さがあるようだ。

  面白かったのは「父と意見が対立して喧嘩になり殴ってしまった」という話。この話が出てきたら「私もやっちゃいました」と告白した人がもう一人いた。逆に これをうらやましがった人もいた。彼は入社直後に父が亡くなり、31歳で否応なしに社長に就くはめになった。父のノウハウも学べずに人員整理もやるはめに なり、2週間で7キロ痩せたという。「経営のことで喧嘩できる相手がいるだけいいよ」とため息をついていた。

 ここから、世代交代の難し さや若手の教育と職人の教育、学官の活用などが話題にのぼった。8名から100名以上の規模の企業まであり、組織や教育も様々である。現場での指揮権をど うとるかという話も出た。共通して言えることは、社内組織、社員教育と言っても生業においては、経営者である父との関係を基軸に、ベテラン社員との関係、 若手社員との関係、現場との関係、営業との関係、技術との関係、パートとの関係等々、全て後継者との関係性の中で考えないと意味がない、ということであろ う。

 ISOに関しては、とっていないところ、とったところ、とったけどやめたところなど様々だった。全般的には批判的な意見が多かっ た。以下に意見を列挙する。必要ない、5Sの徹底で十分。準備しているがとっていない。とらざるを得ないのでとった。週3日幹部で勉強会をしているが従業 員の意識がまだ低いのでとってない。とってからつぶれたところやとってからやめたところもあるので慎重にならざるをえない。とることにより客に安心しても らえる。

 一番優等生的回答だったのはKH氏の「10年近く前にとった。書類はそれ以前からすでに作成していた。9001は設計を含む品 質なので生産の合理化が進み不良が出なくなった。14000は環境だが、これを旗印に考えることが合理化につながる」という発言。彼の口からは「これから の日本は人に出来ないことをやらなければ生きていけない。それには二つの道がある。ひとつは、誰も出来ない安い仕事をやる。もう一つは誰も出来ない難しい 仕事をやる」という名言も出てきた。

 気になったのは、ある後継者が「親企業からQC工程表を出せと言われるのだけどみんな出してる?」 という質問をしてきたこと。これに対しては、昨年話題になった金型設計図の親企業経由中国流出と同じ事態が懸念されるので、出さない方がいいとか、簡略図 だけ出すという意見があった。親企業から強制されるISOはこのような危険性もはらんでいるのかと思い知らされた感があったので、その後公正取引委員会関 連の会議で注意を促した次第である。

 後継者達との座談会は夜の懇親会の席で一層盛り上がり本音もかなり出てきた。彼らを見ていると日本の中小企業もまだまだ期待が持てるような気がする。「後継者は後継者に生まれついたこと自体を資産とすべし」というのが落伍した元後継者からのメッセージである。