世間的にはエリートと目される若者達の就職も大変なようだ。文科系大学院卒の就職難は以前から言われていたが、近年は理系の大学院卒も似たような状況に見舞われている。6月15日午後11時から放映されたNHK教育テレビの「21世紀ビジネス塾-人材を掘り起こせ、第二回、大学院卒は即戦力になれるか-」ではこの問題について論じた。
番組の内容は次のようなものである。「高い失業率が続く中、専門的な技術や能力を持ちながら就職できない人たちが増えている。こうした人たちを活用する道を探るシリーズ第二回目。わが国は産業競争力の強化のために、10年前から大学院生を倍増する計画に取り組んできた。しかし最新のデータによると、理系の大学院卒業生で就職しなかった人の割合は、修士が9.2%、博士が31.1%に上る。大企業が求める人材と大学院卒業生が求める職場のミスマッチが原因といわれる。企業側は技術開発の国際競争が激しさを増す中でより即戦力を求め、院卒は専門知識を生かす職場がないことにジレンマを感じている。どうしたら高い知識を持った彼らを生かすことができるのか。大学院卒業生を積極的に採用することで業績を伸ばした理化学機メーカーと、大学院生を企業で通用する人材に育てるためにベンチャー企業を立ち上げた大学研究室の取り組みを通して考える。
」
この中でとりあげた事例のうち、八王子にある(株)エリオニクス
(http://www.elionix.co.jp/)
の概要を以下に示す。同社は1975年に設立され、走査型電子顕微鏡の開発を皮切りに、電子やX線を応用した研究用装置を企業や大学に納めてきた。製品開発のために、8年前から大学院卒を積極的に採用したいと考え、3年間で7大学を訪問する。20回足を運んだ大学もあったという。当初は全く相手にされなかったが、5年前から状況が変化した。大学の教授が院生を紹介してくれるようになったのである。大企業の求人が減ってきたからだという。その結果5年間で新卒採用が7名、全員が院卒生となった。
現在は彼らを中心に積極的な製品開発が行われている。たとえば、DVDの記憶容量を決める表面の細かい溝の密度を7倍にして記憶容量を飛躍的に高める装置の開発。この新製品は入社1年半の院卒社員が開発した。彼は大学院で電子の特性を研究していた。彼が入社するや社長は彼にこの製品開発を任せることにした。目的意識のはっきりしている彼なら必ず成果を上げてくれるはずと確信したという。1年半くらいで試作のレベルまでいったそうだ。自己実現性の高い仕事をする若者の真面目な眼光には「楽しさ」のようなものがうかがえた。
この事例をうけての小生の結論は以下のようなものであった。すなわち、新卒よりも中途採用が増えているという事実の中に問題の本質と解決の鍵がある。中途採用者とはすでに「企業」に身をおいて「技術革新」と「ビジネス」を体感した人達である。したがって、大学院まで出たのに大企業の就職先がないと嘆かずに、中小企業も選択肢の一つに加え、とりあえず企業の現場に入って、技術者としての経験を積み重ねることが重要だ。先の事例にもあるように、中小規模の製品開発型企業のほうが開発を「まるごと」任されることが多い。大企業で開発の「歯車」の一つになるよりも、短期間で本質的な開発経験を積むことができる。その上でJob hopするなり創業するなりして道を切り開いていった方がいいのではないか。
ところで、先日、学生を連れて毎年恒例の墨田区の町工場見学を行った。パートを含めて15名ほどのその工場では住宅・建設用の金属部品(主に真鍮)の鋳造と、切削・研磨加工をやっている。社長は70歳、長男44 歳が専務、次男も会社に入っている。鋳造工程では普段、細身の筋肉質70歳と背の低いがっしりした背中の65歳という二人の熟練工が作業をしているのだが、この日は細身の人だけだった。ここのところ仕事が少ないのでもう一人は今日はお休み。細身の人も実は最近退職したばかりで、試し鋳造の仕事があるので駆り出されたとのこと。
砂型を作る所には20歳の若者がいた。専務の子息で、今年1月に入ったばかりという。時折、熟練工に教わりながら作業をする長身の背中は結構筋肉が盛り上がっている。熱中する眼差しは先述の大学院卒の若者と同じだ。
さて、いよいよ熟練工が1200度の炉から5キロほどの湯をすくい上げて砂型に注ぐ。補助の若者が金属のへらで湯口を整えたところ、突然、水蒸気爆発。真ん前でカメラを構えていた小生の右手小指とレンズにも熱い光のようなものが飛んできた。ファインダーから目をはずしたら、若者がうずくまっていた。軍手に水分がついていてこれが湯に混じったらしい。彼は手に何カ所かやけどした様子で、すぐに冷やして二階の事務所へ治療に行った。
この後の鋳造作業はテンションを増し、若者の祖父、父、叔父も総出であった。この道50年の熟練工ほどではないにしても、彼らもまたこの作業に通暁している。湯を注いだ砂型は一個10キロ近くになるが、これを何個も重ねて運ぶ。普段は少年サッカーの指導もしている祖父の動きは息子達以上にしっかりしている。
「もの国」今野君(弟)のこともあるので心配だったが、ほどなくして手に包帯をした若者が笑顔で戻ってきた。何か家族ドラマでも見ているようなひと時であったが、これがまさに生業の光景なのだろう。70歳の祖父、44歳の父、20歳の息子。これを息子を起点に追っていけば、時の流れの中の熟練形成を瞬時に観察できるような気がする。
教育テレビの解説では、「中高年の雇用を考える」と題した第一回の放映でも今回においても、人材を活用する側の「経営者の長期的ビジョン」というものを強調した。停滞する経済の中で、われわれは長期的視点を見失いすぎているのではないか。「十年一日」のごとく進歩しているかに見えるIT技術も「十年一ミリ」で向上する基礎技術と熟練技能に支えられているのである。そしてその基盤は生業の人達が担っている。
今の時代、大企業が短期的な視野しか持つことが出来ないのは嘆かわしいことである。しかし若い人達までが、大企業ブランドにとらわれて自らの熟練形成に関わる長期的なビジョンを持つことが出来ないとすれば、これは憂うべきことだ。「老いても現役」の人達は若い頃から現場にいたのである。技能にせよ、技術にせよ、若き頬が色あせるごとに熟練は深まっていく。「世の冬」が来るとも、変わることのない視座を持ち続けることが経営者にも就職活動にいそしむ若者達にも求められる。
この中でとりあげた事例のうち、八王子にある(株)エリオニクス
(http://www.elionix.co.jp/)
の概要を以下に示す。同社は1975年に設立され、走査型電子顕微鏡の開発を皮切りに、電子やX線を応用した研究用装置を企業や大学に納めてきた。製品開発のために、8年前から大学院卒を積極的に採用したいと考え、3年間で7大学を訪問する。20回足を運んだ大学もあったという。当初は全く相手にされなかったが、5年前から状況が変化した。大学の教授が院生を紹介してくれるようになったのである。大企業の求人が減ってきたからだという。その結果5年間で新卒採用が7名、全員が院卒生となった。
現在は彼らを中心に積極的な製品開発が行われている。たとえば、DVDの記憶容量を決める表面の細かい溝の密度を7倍にして記憶容量を飛躍的に高める装置の開発。この新製品は入社1年半の院卒社員が開発した。彼は大学院で電子の特性を研究していた。彼が入社するや社長は彼にこの製品開発を任せることにした。目的意識のはっきりしている彼なら必ず成果を上げてくれるはずと確信したという。1年半くらいで試作のレベルまでいったそうだ。自己実現性の高い仕事をする若者の真面目な眼光には「楽しさ」のようなものがうかがえた。
この事例をうけての小生の結論は以下のようなものであった。すなわち、新卒よりも中途採用が増えているという事実の中に問題の本質と解決の鍵がある。中途採用者とはすでに「企業」に身をおいて「技術革新」と「ビジネス」を体感した人達である。したがって、大学院まで出たのに大企業の就職先がないと嘆かずに、中小企業も選択肢の一つに加え、とりあえず企業の現場に入って、技術者としての経験を積み重ねることが重要だ。先の事例にもあるように、中小規模の製品開発型企業のほうが開発を「まるごと」任されることが多い。大企業で開発の「歯車」の一つになるよりも、短期間で本質的な開発経験を積むことができる。その上でJob hopするなり創業するなりして道を切り開いていった方がいいのではないか。
ところで、先日、学生を連れて毎年恒例の墨田区の町工場見学を行った。パートを含めて15名ほどのその工場では住宅・建設用の金属部品(主に真鍮)の鋳造と、切削・研磨加工をやっている。社長は70歳、長男44 歳が専務、次男も会社に入っている。鋳造工程では普段、細身の筋肉質70歳と背の低いがっしりした背中の65歳という二人の熟練工が作業をしているのだが、この日は細身の人だけだった。ここのところ仕事が少ないのでもう一人は今日はお休み。細身の人も実は最近退職したばかりで、試し鋳造の仕事があるので駆り出されたとのこと。
砂型を作る所には20歳の若者がいた。専務の子息で、今年1月に入ったばかりという。時折、熟練工に教わりながら作業をする長身の背中は結構筋肉が盛り上がっている。熱中する眼差しは先述の大学院卒の若者と同じだ。
さて、いよいよ熟練工が1200度の炉から5キロほどの湯をすくい上げて砂型に注ぐ。補助の若者が金属のへらで湯口を整えたところ、突然、水蒸気爆発。真ん前でカメラを構えていた小生の右手小指とレンズにも熱い光のようなものが飛んできた。ファインダーから目をはずしたら、若者がうずくまっていた。軍手に水分がついていてこれが湯に混じったらしい。彼は手に何カ所かやけどした様子で、すぐに冷やして二階の事務所へ治療に行った。
この後の鋳造作業はテンションを増し、若者の祖父、父、叔父も総出であった。この道50年の熟練工ほどではないにしても、彼らもまたこの作業に通暁している。湯を注いだ砂型は一個10キロ近くになるが、これを何個も重ねて運ぶ。普段は少年サッカーの指導もしている祖父の動きは息子達以上にしっかりしている。
「もの国」今野君(弟)のこともあるので心配だったが、ほどなくして手に包帯をした若者が笑顔で戻ってきた。何か家族ドラマでも見ているようなひと時であったが、これがまさに生業の光景なのだろう。70歳の祖父、44歳の父、20歳の息子。これを息子を起点に追っていけば、時の流れの中の熟練形成を瞬時に観察できるような気がする。
教育テレビの解説では、「中高年の雇用を考える」と題した第一回の放映でも今回においても、人材を活用する側の「経営者の長期的ビジョン」というものを強調した。停滞する経済の中で、われわれは長期的視点を見失いすぎているのではないか。「十年一日」のごとく進歩しているかに見えるIT技術も「十年一ミリ」で向上する基礎技術と熟練技能に支えられているのである。そしてその基盤は生業の人達が担っている。
今の時代、大企業が短期的な視野しか持つことが出来ないのは嘆かわしいことである。しかし若い人達までが、大企業ブランドにとらわれて自らの熟練形成に関わる長期的なビジョンを持つことが出来ないとすれば、これは憂うべきことだ。「老いても現役」の人達は若い頃から現場にいたのである。技能にせよ、技術にせよ、若き頬が色あせるごとに熟練は深まっていく。「世の冬」が来るとも、変わることのない視座を持ち続けることが経営者にも就職活動にいそしむ若者達にも求められる。