もの国総合研究所マンスリーレポート 第13号 ■ 中村智彦

 毎年、同じことを言っている気がするのだが、やっぱり一年経つのは早い。 今年を振り返っても、あまりいいニュースはなかったような気がする。止めがアメリカのテロ事件と、それに続く「戦争」だ。前半にも色々、嫌なニュースが あったような気がするが、あまりに大きな出来事があったために、悲しいことだが逆に印象が薄れてしまった。そんな一年の終わり、たまにはまじめに考えてみ ました。
今回は、中村智彦が担当しました。
・The OMORO-MONOLOGY   中国は脅威か?

  今年、「中国」がブームだったといったら呆れられるだろうか。一年を振り返ると、今年ほど中国に対する印象というかイメージが大きく変化したことはなかっ た。今まで、中国というと、どちらかというと社会主義国で、少し遅れていて、三千年の歴史の遺跡とか、中華料理とか、あるいは第二次世界大戦の時の悪い思 い出と結び付いて来た。
 今年、中国は、しばしば「脅威」という言葉をもって語られるようになった。もちろん、「中国は脅威である」という文章 は、従来から見られた。ただ、それは共産主義とか、軍事力などに対して、まあ、少し右に傾いたマスコミで用いられるフレーズだった。しかし、今年は少し違 う。一般の新聞や雑誌などでも、「中国は脅威」という文字が踊っている。
 こうした「中国脅威論」に貢献したのは、なんといってもユニクロやダイ ソーといった企業だろう。品質も良く、価格は安く、大量に販売するこれらの企業は、不況の中で歓迎されてきた。しかし、その一方で、社会に失業者があふ れ、景気も一層悪化していくなかで、安いモノが手に入るという楽しさの背後にある、言いようのない不安を多くの人たちが感じ始めたのだろう。それが「脅 威」に結びついている。
 多くの大企業は、中国を生産拠点として位置づけている。今後、発展する新たな巨大市場としての期待も大きい。日本企業 は、研究開発拠点を日本に置き、生産拠点は中国にという図式が、現実化している。「中国を脅威と見なすのではなく、パートナーとして見なせ」という論はこ こから来ている。さらに、「若年労働者が多く、活気にあふれており、すばらしい」と絶賛する研究者もいる。
 日本の繊維産地は、「もはや地場産業と呼べるレベルにはない」と指摘されるほどの凋落ぶりである。中国製品に対する関税の引き上げなどの要求も、産地の中に中国に進出している企業もあって、意見がまとまらない。産地の疲弊は極限にまで達している。
  大きな打撃というよりは、じわじわと衰退の道を進んでいるのは、繊維産業だけではない。ほとんどの製造業で影響が出始めている。地方に行くと、都市部では すでに廃業や倒産しているであろう企業が存続しているケースを眼にする。都市部の中小企業が不況の波をもろにくらって倒産してしまうのが突然死なら、地方 部の中小企業は「老衰による安楽死だ」(ある地方の商工団体職員の弁)という。「中国製には、勝てっこない」そういう多くの経営者の声も聞く。
  しかし、こうした状態が続くかどうかは分からない。中国から安い製品が輸入しつづけられるなどという保証はどこにもないからだ。日本の大企業は生産拠点を 次々に海外に移している。家や事務所にある電気製品のほとんどが海外製だ。身につけている服もコートやセーターから靴下やパンツに至るまで海外製。輸入が 増大してのは身をもって実感できる。今まで輸出していたモノを輸入するようになったのだから、逆にお金が出ていくようになっているのは、当然だ。つまり、 貿易収支での黒字は減少傾向をはっきりみせている。今まで輸出していなかったモノやサービスを輸出できているようになっているのであれば、良いのだが、残 念ながら今の日本にそういうモノやサービスは見えていない。バブルの末期に、これからは金融サービスの時代だと騒いでいたのは、単なる幻だった。アメリカ のようになるというのは嘘である。アメリカは、もともとサービスなど貿易外収支が黒字のだ。日本は、ずっと赤字なのだ。つまり、アメリカではモノの輸出が 減っても下支えするものがあるが、日本にはないのだ。
 企業で言えば、経費が増大するのに、利益が減少していくようなものだ。もちろん、よく主張 されるように「日本には、巨額の資産がある」のは確かだが、しかし、それは強がりにしか過ぎない。赤字になりつつある企業の株を喜んで買う投資家がいない のと、同じで日本の円を買う投資が減る。すると円安になる。円安になると、今まで格安で輸入し、販売できていた様々な商品が値上がりする。経済学の入門編 である。
 さて、問題は、ここからである。円安になって輸入品の値段が上昇すれば、国内生産も競争力を取り戻す可能性がある。しかし、国内での生 産再開は、すでに容易ではなくなっている。とすると、どういう状況になるのだろうか。さすがに多くの人も、それに気が付いてきた。いいようのない恐怖感 は、そこから生まれ出てくる。脅威は、中国ではなかったのだ。自分たちの住んでいる国、つまり日本の無策ぶりこそが、我々の脅威なのだ。
 しかし どうだろう。中小企業、特に製造業は厳しい状況に直面していることは否定できない事実であるが、今が正念場と言えなくないだろうか。「何をのんきなことを 言っている」という批判もあるかもしれない。しかし、いずれ、現在のように海外での生産を謳歌できなくなるのは目に見えている。日本国内での様々な需要が ゼロになることはありえない。レコードからCDに変わった時、レコード針の製造企業は次々と廃業した。今、レコードは無くならず、むしろ静かなブームだと 言われている。1社だけ残った製造メーカーは独占企業になった。中国、中国と草木もなびく状況は、そう長くは続かないだろう。
 誤解を恐れずに言 えば、後継者のいない企業は、廃業すべくして廃業していく。その中で若い経営者が前向きに頑張った企業だけが残っていくだろう。淘汰は一層進む。しかし、 近い将来、その努力が報われる時が来る。中国は脅威ではない。うちなる脅威を乗り越えられれば、中小企業にも新しい時代が来る。
                          (C)Tomohiko Nakamura 2001