枕詞のように「IT不況」と言われるが、小生が今夏以降訪ねた中小企業の中には、去年より売上が増えたところや、土曜日も残業しているところが意外にあった。以下ではその代表例を披露しよう。
 製造業の淘汰がいち早く進展した台東区の谷中にある(株)高山医療機械製作所は明治38年頃の創業で、形成外科用の鉗子や持針器を作っている。住宅街の 路地の奥に狭く細長い工場二棟が住宅と一体化している。中には研磨機と小さな旋盤とフライス盤と焼き入れ器などがある。4代目社長(36歳)も手ぬぐい鉢 巻に地下足袋、研磨は胡座でやる。刀鍛冶の世界に近いイメージだ。ここに若い人3名と70歳以上3名が働いている。近頃はいつも忙しそうだ。平日は10時 まで、土曜は6時まで仕事という。先日は、脳外科用の柑子やメスを加工していた。外科手術の第一人者と開発をしている。その日、社長は白内障手術用のメス を天眼鏡で見ながら加工していた。何個作っても安定した品質で作れるのは彼だけという。爪に油のたまった太い親指は強く反り返っていてしかも指紋がない。 長年ここで押さえ付け続けるとこうなる。

  台東区に次いで製造業の淘汰が進んだ墨田区にも元気な町工場は多い。(株)日伸スプリングは自社開発した設備機械などで機械・弱電用精密バネの自動加工を 得意にしている。京島の住工密集地にある工場は長屋のような3棟がうねり、経営者の住居はその3階にある。近年仕事は増加して、品種は一層多様になった。 従業者数は家族も含めて10名ほど。仕事はバネだけでなくその加工技術を活用した服飾用アームバンド、ピアス、自転車用ボトルケース、モデルガン部品など 一品ものから量産もの(ボールペンのバネなど)まで様々だ。得意先の数は100件ほどで品種は何千に及ぶ。試作品が事務所のちゃぶ台の上にも進出してい る。発注者が「こんなやつ作ってくれ」と言うだけで、社長はアイディアと図面と作り方が同時に浮かぶようだ。ハイテクではなくとも、ここでしか出来ないこ とをやっている。

 キューポラの火が薄れゆく川口にも工場を新設した企業がある。吉村工業(株)の工場は昭和5年の創業以来、川口元郷駅 のすぐ横にあった。駅建設により今年9月、近くの朝日町に移転した。地方に移ることが多い鋳物業には珍しい市内移転だ。周辺の鋳物工場の中で、ひときわ新 しい工場である。周辺住民にかなり配慮して作られており、敷地3000坪の緑地比率は25%。大掛かりな公害防止装置を完備し、屋上には防塵防音装置が林 立している。製造品目は共同溝などのマンホールの蓋や枠。手込めの砂型鋳造で、門型MCなどによる切削加工、最新鋭の電気電着塗装ライン、歪測定などの検 査機も揃えた生産工程を持ち、高価な設備も多い。社長は3代目41歳。従業員数43名のうち20歳代6名と、重労働の職場には若い人が多い。

 大田区の町工場も負けていない。以下は今年10月末に出会った印象的な企業である。(株)ナノ
http://www.nanowave.co.jp/
は アタッシュケースに入る超小型NC旋盤、超精密位置決めステージ、超小型NCフライス盤などの精密機器を製作する企業であるが、ここの人員構成が面白い。 総勢20名程だが、80歳の旋盤熟練工や60歳を超える仕上げ・組立工が活躍する一方で、大卒、院卒の若い工科系技術者がたくさんいる。今年も大学新卒3 名を採用し、うち1名が国立大学の修士である。若い技術者と高齢の熟練技能者が共存する工場といえる。

 (株)ミクロン
http://www.micdent.com/index.html
は、 昭和51年に創業された開発型企業だ。エアーによる振動源の発明により、歯科用歯石除去器や根管治療機器などを開発し、アメリカと日本で振動源の特許登録 している。この分野ではここだけ、という企業である。平成13年に機械設備を充実させるために池上工場を増設した。建設会社のビルだったという工場はなか なか凝ったつくりで、2階で組立て、1階と地下で細穴放電加工機などのNC機器を駆使して機械加工を行っている。とりわけ1階は「見える工場」にしてもよ いくらいのきれいな工場である。従業員25名の多くは若い人達で、平均年齢34歳である。来年度も工学系大卒3名の採用を予定している。

  大志技研(株)は旭川出身の経営者(50歳)が志を抱いて創業した。品川で修業して27年前に1人で切削工具の再研磨の仕事を始めた。現在は切削工具の改 良、改善、再研磨が主な仕事だ。例えば、ドリルに段をつけて1工程で加工できるようにする。汎用機もNC機も駆使して加工する。研磨砥石もオリジナルだ。 仕事は途切れることがないという。従業員20名のほとんどは20歳代で、若い人の養成に力を入れている。食堂の壁には手書きで社員達の楽しそうな「今年の 目標」が貼ってある。いわく「病欠をなくす」「安全運転」など。非常に人間的でリラックスした雰囲気があふれる職場だ。

 平賀機械工業(株)
http://www.hiraga.co.jp/
は ものを作る機械を作っている。戦後、ビールの王冠製造機械を作ったのを契機に、カップ麺充填シール機 、自動キャップ・パッキン詰機、ガラス基板製造装置、各種自動供給・整列装置などあらゆる機械を作る。訪ねた時はマヨネーズの蓋を作る機械を作っていた。 ここも現場に若い人が多く、50名のうち22歳から35歳が7割、あとは50歳以上。自動機の組立てには熟練工が不可欠で、ここに相当の腕前の多能工を確 保している。2代目経営者(52歳)自身も機械科出身で、工作機械メーカに勤務してキサゲ技能も身につけている。

 (株)神田鉄工所は大 型の設備機械で勝負する。大型の複合プレーナーと門型MCでタンクのフレームなど大型の構造材を加工する。このタイプのプレーナーは、もう作られておら ず、熟練も要するので、国内にも中国にもあまり競争相手はいない。しかもこれを門型MCと組み合わせて加工できるところはなかなかない。今、稼働率 100%、残業1時間という。従業員11名で、MCは20歳代1名、30歳代2名が担当。DNC運転による3次元加工も得意だ。複合プレーナーは熟練工が 操る。50歳代3名、60歳代1名が担当している。2代目経営者(57歳)も熟練工だ。ここも立派なHPを持っており、大型設備全てを丁寧に画像も交えて 紹介している点と、中国語と英語のバージョンを用意しているところに、自社のコア技術に対する自負心と意気込みが伺える。

 最後に東北の 企業を一つ。花巻市で頑張っているのは起業化支援センターだけではない。地場の企業にも農業や地域社会を対象にしてフル稼働している会社がある。和同産業 (株)は農業機械や除雪機を開発・生産している。保有特許数は105件。新製品として環境関連製品(含油排水処理装置など)も開発している。切削、プレ ス、カチオン電着塗装、メッキ、溶接、組立とあらゆる工程を持ち、開発・設計から一貫生産出来るというところが強みである。自社ブランドとホンダやクボタ などのOEM生産を行なっている。先日は今年新発売のホンダのハイブリッド除雪機の生産でフル稼働していた。従業員数は145名。組立ラインを中心に人材 派遣を多用しているが「一日でプロにする」べく作業を細分化してそれだけを徹底してやらせるなどの工夫を凝らしている。経営者(67歳)は2代目で、子息 も工場に入って仕事をしている。

 以上の事例、手短に以下のようにまとめてみた。1.自社のコア技術に誇りを持っている。HPにもそれが 現れている。技術内容を詳しく説明し、会社をアピールしたいという気持ちにあふれる。2.高齢の人が多い。熟練技能は付加価値の源泉だ。3.若い人が多 い。新卒、それも大卒や院卒を募集している。高齢者と若い人を組み合わせると化学反応がおきるのかもしれない。4.後継者がいるところが多い。5.経営者 も付加価値生産能力がある。6.多品種変量対応の生産システムを持つ。7.元から作るところが多い。