もの国総合研究所マンスリーレポート 第2号 ■ 田中のぞみ
創刊号で「所長」と呼ばれ、ビックリした「もの国総研」変集長です。取材と称して巡業する先々でいろいろ変わったものを集めるのが得意です。以後、「しゅーちょ」として隔月、お目もじします。お見知り置きのほどを。
犬も歩けば…ではありませんが、人も歩けばいろんなものが集まります。今年もいろいろ集めました。圧巻は、宮崎の焼酎「甕の雫」の「甕」でしょう。取材 初日、美味しく中身を頂戴した後、残る大分~沖縄2泊3日の取材の間中、後生大事とばかり、空甕を持って歩きました。食い気と2人連れなら、強行軍も何の その! です。
そうそう。「もの国総研」は、主任研究員としゅーちょの2人でも、けっこうドタバタしています。当面、新規採用予定はございませんので、あしからず・・・
なお、今号の「もの国総研」の一切の文責は田中のぞみにあります。
「つれづれもの草子」 第1回
巡業先で出会い、見聞きする人・もの・こと。それにまつわるあれこれを少し「ものづくり」な視点から書きつづる。題して「つれづれもの草子」です。
「変わること、変わらぬこと」
この夏と晩秋、金沢を訪ねました。15年ほど前、父の単身赴任に便乗してさんざん通い詰め、半分住み着いていた町です。が、駅前を中心とした大変貌ぶりに はただただ、唖然とさせられました。変わるもの、変わらぬものとは、変わるとは何だろう・・・と、少しく哲学? してしまいました。
概して言うと、「過去の財産・資源」にあぐらをかいて、しかも「これでいい」と思ってきたところが変わらざるを得なくなっていた、ということかもしれません。
例えば近江町市場。もはや「地元庶民の台所」ではなく、「観光客の買い物場」で生きているという印象を強く受けました。市場のある武蔵ケ辻は古都金沢でも 屈指の古くからの商業地域。今、その立地・由来が、逆に、ネックになっている面もあるようです。駐車スペースを今更確保しにくい、「まとめてなんぼ」の売 り方では核家族化したお客に受け入れられない、など。彼らが「よし」とし、「売り」にしていたものがもはや財布の紐を握るお客の要請に合わなくなってい る。
と同時に、バブル期に観光バスが何台も連なり、「金沢の近江町市場」というだけでお金を落としていってくれるお客がたくさん来た。それを相 手に楽に商売することを覚えた。いわば、商売人としては禁じ手の甘い罠にはまってしまった面もある。「変わらざるを得なかった」のには、大きくはその2つ の要素があるようでした。
一方で、面白い変化、と呼べそうなことも実感しました。しかも、焼き物、いわゆる伝統工芸の中でです。それは、「変わらない」からこそ、「生き生きと変わる」ということかもしれません。
金沢には、有加賀百万石の前田藩時代から続く、大樋焼という焼き物があります。「殿様のお庭焼」の伝統を受け継ぎ、今も抹茶碗が主体。ロクロは一切使わ ず、手びねりという手法を用います。独特の艶やかな飴色(飴釉)が特徴とされますが、できあがる茶碗は一個一個表情が違います。
当代当主、大樋 勘兵衛さんは九代目。大樋焼本家窯元の直系から由緒ある「勘兵衛」の名を譲られて以来、「勘兵衛の名に恥じないものをつくろうと刺激と責任を感じ続けてい る」とおっしゃいます。けれど「毎日、工房で無心でつくっているときがいちばん楽しい」という飾らないけれど存在感のある方です。
「焼き物ちゅうのは手法は昔のままでも、時代とともに変わっていきます。同じ人のものでも全部違う。だから、一個一個という心でつくってますな」
「つくる作品には、だいたいその本人の性格とか、歴史とか、あるいは経験とか、すべてが出ているように思いますなぁ」
「大樋焼ちゅうのは「私(わたくし)」のものではない、歴史です。文化です。やっぱり責任はありますわな。正しく伝えるちゅうことと、継続するちゅうことですね」
「100年後にね、光り輝いている、そういうものをつくれればいいと思うとんですけどね。これは残るから楽しいんですわ」
3時間近くもお話しする中ででてきた言葉です。これが九代目の「ものづくり」です。伺っていて思ったのは「伝統工芸品も、工業製品も『つくる』という目的 の点では変わらないな」ということでした。それは「変わらない目的があるから、変わることを受け入れていく」ということかも知れません。「ものづくり」の 本質、かも知れません。
そういう「変わらないから変わること」をいちばん実感させてくれたのは、お店の若い女性店員、佐々野維(ささの ゆい)さんです。ごく普通の、さっぱりしたお嬢さんです。でも、買うとも買わぬともつかぬこちらの求めに応じて、自由に自然にいろいろ見せてくれる。その 言葉の端々に「好きで好きでたまらない」という気持ちが伝わってきます。聞けば、自分で大樋の湯飲み茶碗を一つ求め、その使えば使うほどなじむ様にナット クした上で本家窯元の店員になったとか。若いのに珍しい。逆に、若さを受け入れる幅が大樋焼本家窯元の伝統にはある。
「お若いのに、お珍しいわね」と言ったら、「よく言われるんです。でも、お客様も珍しいですよ」。「珍しい」同士、再会を約して店を出ました。
【N.TANAKA(C)】
くま子とはずがたり
月に1度くらい「横丁のご隠居」と四方山話をします。もうほとんど落語の「長屋の熊さん」状態。その“とんちんかん話”を黙って聞き、「ナルホドォ」な一 言で“納得できる話”にしてくれるのがご隠居です。これから、時々、このご隠居とくま子のやりとりから「!」な一言をご紹介していきます。
【川の流れのように・・・】
くま:「ご隠居ぉ、なんか、よくわかんなくなっちゃった」
隠居:「おや、くまさんかい。今日は何だね」
く ま:「なんでも、IT,ITって、どこアタマぶっつけたんだい、って言いたくなるぐらいに、国会あたりで騒いでるってんでしょ。だけどね、あたしは今の ITってのは、道具だってことさえわかってりゃいい、と思ってんですよね。それをね、IT革命だぁ、なんて言われた日には、ちょいとまっとくれよ、って ね。IT革命ってのぁまた、意味合いが違ってくるんじゃないの、と。もう、そこんとこ考え出すと、それこそ、アタマがアイテー」
隠居: 「バカをお言いでないよ。そうかい、でも、珍しくいいことをお考えだね。そいつぁね、今ンところは、こう考えておいたらどうだい。川てぇのはいろんな流れ がある。胸を突く急流てのもあれば、背は立つ程度の深さのところもある。もっと、うんと深いところってのもあるな。さて、お前さんなら、どこで泳ぐ? 背 が立つ程度はいちばん楽だな。だけど、みんなもそこで泳ごうとするから、ここで先頭に立って泳ごうとしたら、かえって大変だ。並み大抵の泳ぎじゃ無理だ。 うんと深いてのは、ちょっと見にはコワイんだが幅が広くて流れも緩やかだ。度胸さえあれば、ここなんぞはゆったり泳げるかも知れないねぇ。いちばん大変な のは胸を突く急流だ。ここは抜き手を切る準備をしておかないというと、溺れるよ。だけどね、溺れさえしなけりゃ、滅多に人も泳ぎになんざ来ないから、先頭 に立てるチャンスも多いな。さしずめ、今のITベンチャーなんてぇのはここを泳いでる連中だろう。だけどね、わたしは深場ねらいだ、と思ってるンだよ。度 胸をつけて、深場をじっくり自分の泳ぎで泳いでく。IT革命てのはぁ、たとえてみればそおゆうことじゃないのかねぇ」
くま:「ふーーん、深場ねらい、ねぇ。いいことゆうねぇ、ご隠居は。あ、だめだ、ご隠居。別の話にしてくれませんか。あたしは、泳げなかったンだ」m(__)m
創刊号で「所長」と呼ばれ、ビックリした「もの国総研」変集長です。取材と称して巡業する先々でいろいろ変わったものを集めるのが得意です。以後、「しゅーちょ」として隔月、お目もじします。お見知り置きのほどを。
犬も歩けば…ではありませんが、人も歩けばいろんなものが集まります。今年もいろいろ集めました。圧巻は、宮崎の焼酎「甕の雫」の「甕」でしょう。取材 初日、美味しく中身を頂戴した後、残る大分~沖縄2泊3日の取材の間中、後生大事とばかり、空甕を持って歩きました。食い気と2人連れなら、強行軍も何の その! です。
そうそう。「もの国総研」は、主任研究員としゅーちょの2人でも、けっこうドタバタしています。当面、新規採用予定はございませんので、あしからず・・・
なお、今号の「もの国総研」の一切の文責は田中のぞみにあります。
「つれづれもの草子」 第1回
巡業先で出会い、見聞きする人・もの・こと。それにまつわるあれこれを少し「ものづくり」な視点から書きつづる。題して「つれづれもの草子」です。
「変わること、変わらぬこと」
この夏と晩秋、金沢を訪ねました。15年ほど前、父の単身赴任に便乗してさんざん通い詰め、半分住み着いていた町です。が、駅前を中心とした大変貌ぶりに はただただ、唖然とさせられました。変わるもの、変わらぬものとは、変わるとは何だろう・・・と、少しく哲学? してしまいました。
概して言うと、「過去の財産・資源」にあぐらをかいて、しかも「これでいい」と思ってきたところが変わらざるを得なくなっていた、ということかもしれません。
例えば近江町市場。もはや「地元庶民の台所」ではなく、「観光客の買い物場」で生きているという印象を強く受けました。市場のある武蔵ケ辻は古都金沢でも 屈指の古くからの商業地域。今、その立地・由来が、逆に、ネックになっている面もあるようです。駐車スペースを今更確保しにくい、「まとめてなんぼ」の売 り方では核家族化したお客に受け入れられない、など。彼らが「よし」とし、「売り」にしていたものがもはや財布の紐を握るお客の要請に合わなくなってい る。
と同時に、バブル期に観光バスが何台も連なり、「金沢の近江町市場」というだけでお金を落としていってくれるお客がたくさん来た。それを相 手に楽に商売することを覚えた。いわば、商売人としては禁じ手の甘い罠にはまってしまった面もある。「変わらざるを得なかった」のには、大きくはその2つ の要素があるようでした。
一方で、面白い変化、と呼べそうなことも実感しました。しかも、焼き物、いわゆる伝統工芸の中でです。それは、「変わらない」からこそ、「生き生きと変わる」ということかもしれません。
金沢には、有加賀百万石の前田藩時代から続く、大樋焼という焼き物があります。「殿様のお庭焼」の伝統を受け継ぎ、今も抹茶碗が主体。ロクロは一切使わ ず、手びねりという手法を用います。独特の艶やかな飴色(飴釉)が特徴とされますが、できあがる茶碗は一個一個表情が違います。
当代当主、大樋 勘兵衛さんは九代目。大樋焼本家窯元の直系から由緒ある「勘兵衛」の名を譲られて以来、「勘兵衛の名に恥じないものをつくろうと刺激と責任を感じ続けてい る」とおっしゃいます。けれど「毎日、工房で無心でつくっているときがいちばん楽しい」という飾らないけれど存在感のある方です。
「焼き物ちゅうのは手法は昔のままでも、時代とともに変わっていきます。同じ人のものでも全部違う。だから、一個一個という心でつくってますな」
「つくる作品には、だいたいその本人の性格とか、歴史とか、あるいは経験とか、すべてが出ているように思いますなぁ」
「大樋焼ちゅうのは「私(わたくし)」のものではない、歴史です。文化です。やっぱり責任はありますわな。正しく伝えるちゅうことと、継続するちゅうことですね」
「100年後にね、光り輝いている、そういうものをつくれればいいと思うとんですけどね。これは残るから楽しいんですわ」
3時間近くもお話しする中ででてきた言葉です。これが九代目の「ものづくり」です。伺っていて思ったのは「伝統工芸品も、工業製品も『つくる』という目的 の点では変わらないな」ということでした。それは「変わらない目的があるから、変わることを受け入れていく」ということかも知れません。「ものづくり」の 本質、かも知れません。
そういう「変わらないから変わること」をいちばん実感させてくれたのは、お店の若い女性店員、佐々野維(ささの ゆい)さんです。ごく普通の、さっぱりしたお嬢さんです。でも、買うとも買わぬともつかぬこちらの求めに応じて、自由に自然にいろいろ見せてくれる。その 言葉の端々に「好きで好きでたまらない」という気持ちが伝わってきます。聞けば、自分で大樋の湯飲み茶碗を一つ求め、その使えば使うほどなじむ様にナット クした上で本家窯元の店員になったとか。若いのに珍しい。逆に、若さを受け入れる幅が大樋焼本家窯元の伝統にはある。
「お若いのに、お珍しいわね」と言ったら、「よく言われるんです。でも、お客様も珍しいですよ」。「珍しい」同士、再会を約して店を出ました。
【N.TANAKA(C)】
くま子とはずがたり
月に1度くらい「横丁のご隠居」と四方山話をします。もうほとんど落語の「長屋の熊さん」状態。その“とんちんかん話”を黙って聞き、「ナルホドォ」な一 言で“納得できる話”にしてくれるのがご隠居です。これから、時々、このご隠居とくま子のやりとりから「!」な一言をご紹介していきます。
【川の流れのように・・・】
くま:「ご隠居ぉ、なんか、よくわかんなくなっちゃった」
隠居:「おや、くまさんかい。今日は何だね」
く ま:「なんでも、IT,ITって、どこアタマぶっつけたんだい、って言いたくなるぐらいに、国会あたりで騒いでるってんでしょ。だけどね、あたしは今の ITってのは、道具だってことさえわかってりゃいい、と思ってんですよね。それをね、IT革命だぁ、なんて言われた日には、ちょいとまっとくれよ、って ね。IT革命ってのぁまた、意味合いが違ってくるんじゃないの、と。もう、そこんとこ考え出すと、それこそ、アタマがアイテー」
隠居: 「バカをお言いでないよ。そうかい、でも、珍しくいいことをお考えだね。そいつぁね、今ンところは、こう考えておいたらどうだい。川てぇのはいろんな流れ がある。胸を突く急流てのもあれば、背は立つ程度の深さのところもある。もっと、うんと深いところってのもあるな。さて、お前さんなら、どこで泳ぐ? 背 が立つ程度はいちばん楽だな。だけど、みんなもそこで泳ごうとするから、ここで先頭に立って泳ごうとしたら、かえって大変だ。並み大抵の泳ぎじゃ無理だ。 うんと深いてのは、ちょっと見にはコワイんだが幅が広くて流れも緩やかだ。度胸さえあれば、ここなんぞはゆったり泳げるかも知れないねぇ。いちばん大変な のは胸を突く急流だ。ここは抜き手を切る準備をしておかないというと、溺れるよ。だけどね、溺れさえしなけりゃ、滅多に人も泳ぎになんざ来ないから、先頭 に立てるチャンスも多いな。さしずめ、今のITベンチャーなんてぇのはここを泳いでる連中だろう。だけどね、わたしは深場ねらいだ、と思ってるンだよ。度 胸をつけて、深場をじっくり自分の泳ぎで泳いでく。IT革命てのはぁ、たとえてみればそおゆうことじゃないのかねぇ」
くま:「ふーーん、深場ねらい、ねぇ。いいことゆうねぇ、ご隠居は。あ、だめだ、ご隠居。別の話にしてくれませんか。あたしは、泳げなかったンだ」m(__)m