毎年春に、遠方に住む親戚の子どもたちに本を贈る。

生まれたときから小学校入学までは、福音館の月間絵本「こどものとも」が届くようにしていた。小学校に入ってからは、年に2冊ずつ、ノンフィクションやリアルな物語と不思議な物語を組み合わせて贈ってきた。

その子たちもずいぶん大きくなった。中学生ふたりと小学校高学年だ。

もしかしたら、別に読書が好きなわけではないのかもしれない（遠方なので、ほとんど会わない）。物語を栄養にして大きくなってきた私の独断に付き合わせてしまっているだけかもしれない。

それで、今年は2冊のうちの1冊を絵本にしてみた。

絵本は小さい子のためのものではなく、小さい子どもから大人まで、年齢制限なく読める。そして、読みやすいし絵を楽しむこともできる。

今年は引っ越しそのほか（怠け心ともいう）で、時期がずいぶん遅くなってしまった。

中学三年生の女の子に選んだ本。

宮部みゆき作　『本所深川ふしぎ草紙』新潮文庫

ボランティアで図書館の展示や書籍整理を手伝ったことがある。そこに、宮部みゆきの『ステップファーザー・ステップ』など、いくつかの作品があった。この人は、子どもをとても魅力的に書く人だと思う。

これは時代小説だけれど、短編を集めたもので読みやすく、ちょっと怖くて子どもも出てくる。

絵本に選んだのはこれ。

ルーマー・ゴッデン作　『ねずみ女房』　福音館書店

すでに古典の域に入る名作絵本。地味だけれど、ねずみ女房の思いが胸に迫る。

これを気に入ってくれたなら、清水真砂子作『そして、ねずみ女房は星を見た』（テン・ブックス）もいつか読んでほしい。

清水真砂子さんといえば、アーシュラ・K・ル・グィンの『ゲド戦記』シリーズの翻訳者として有名だ。これも素晴らしいので『ゲド戦記』もいつか読んでほしい（ジブリがアニメでめちゃくちゃにしたけど、あれで「ゲド戦記」を知ったつもりにならないでほしい）。

子どもにわかる言葉で「こどもの本」を書くことは、文学のレベルを下げることではない。「文学」として小さい子どもに面白い物語を書くのはとても難しいことだと思うけれど、今も読み継がれるたくさんの絵本・児童書は、すべて大人になって読んでも質の落ちていない文学だと思う。

中学一年生の女の子に。

柏葉幸子作　『岬のマヨイガ』　講談社

本を購入しようと調べて、初めてこれがアニメ映画になっていたことを知った（情報にうとい）。アニメ情報を見た限りでは、本とはかなり違う設定になっているようだ。

この本では、根底に東日本大震災がある。

震災後に何度か岩手県に行った。最初に行ったとき瓦礫の残る真っ平らな寂しい場所だった釜石の海辺に記念公園ができ、津波が3階までとどいた小・中学校は高台の新校舎になっていた。復旧した三陸鉄道リアス線にも乗り、海に浮かぶ「ひょっこりひょうたん島」とマヨイガ（迷い家）のある岬を探した。

これを読む子はちょうど震災のころに生まれている。

その子への絵本。

岸武雄作・長谷川知子絵　『わたしはひろがる』子どもの未来社

本を読むことで、世界平和にまでつないでいけると思える絵本。

人間は、外側より広い内側を持っていると思う。

小学五年生の男の子に贈る本。

那須正幹作　『あやうしズッコケ探検隊』ポプラ社

無人島で暮らしたい、という夢を持っている子らしいので、シリーズ一冊目ではないけれど三人が無人島に漂着するこの巻を。主人公たちは小学六年生。今の子たちなら携帯電話くらい（スマホか。私は持っていないけど）標準装備だろうけれど、1980年に書かれたこの物語はどちらかといえば『十五少年漂流記』に近い。

ズッコケシリーズ50冊、全部読んだつもりだけれど抜けがあるかもしれない。そのあと書かれた『ズッコケ中年三人組』（40歳から50歳）10冊も、たぶん読んだはず。三人はみな子ども時代を過ごした町で、家の近所で大人になっている。なぜ外へ出ていかないんだろう、と思っていた私も60を過ぎて生まれ育った場所に帰って来た。

この子への絵本は海つながりで。

鈴木まもる作・絵　『ウミガメものがたり』　童心社

仕事でSDGsの企画に関わったとき、資料のひとつとして見つけた絵本。

ウミガメは生まれたときの周囲の温度で雄雌が決まる。温度がウミガメの基準（29度くらい）より低ければ雄、高ければ雌になる（ちょうどのときは半々になるとか）。地球温暖化が言われる今、雌の数が圧倒的に多くなっているらしい。

調査する場所や調査方法にもよるだろうけれど、雄1に対し、雌116という結果もあるそうだ。

広い海の中で、やっと雄に出会えて卵を産む雌。卵を産むためには砂浜に行かなくてはならないけれど、その砂浜もシーサイドビューを売りにしているホテルなどの明かりがあると、ウミガメは上陸できない。

40年以上昔、四国の徳島県日和佐に行ったことがある。アカウミガメの産卵で有名なところだ。海に近い国民宿舎に泊まったとき、そこの人に「夜になったらこちら側の窓のカーテンを閉めてください」と言われた。海側の窓に黒いカーテンがあった。

子どもたちが本を読んでくれるかどうかわからないけど「いつか読む本」を持っているだけでもいいと思っている。だから「あの本どうだった？」なんて聞いたことは一度もない。

私はたまたま本を読むのが好きだったけれど（母親に「アンタには本を読ませ過ぎた。だから、こんな得体の知れない変な子になった」と言われた。「読ませ」られたことはないんだけど）子どもたちには、それぞれ好きなものがあるだろう。それが本でなくてもいい。

贈られる本を負担に思わないで「いつかの本棚」に置いてもらえればいいなあ、と思う。