新宿の長い長い夜。の長い長い日記。 | 快児オフィシャルブログ「快児ワードファクトリー」Powered by Ameba

新宿の長い長い夜。の長い長い日記。

これは、2005年12月23日に書いた日記。


昨日新宿で、小学校時代の友人と3人で飲んだ。
いい感じに酔っ払い、JR山の手線の終電で帰ろうと新宿駅に向かった。
すると、ホームには驚くべき数の人間がいた。なんだこれは。アナウンスで「恵比寿駅で、ホームに人が落ちました関係で、電車に遅れがでております」と言っている。
人身事故があったならしかたがないが、この人数、例え液体にしたとしても車両におさまらないだろう。電車はあと一本。どうするのだ。

ほどなくして最終電車はやってきた。車内は満員。昼間なら新宿でほとんどの客が入れ替わる。しかしこれは最終だ。今新宿で降りるやつは、朝までエロいことをしようという親父と、ホストとチーマーとヤンキーとギャングくらいだろう。普通はそのまま田舎の我が家に帰るはずだ。

案の定さほど人は降りなかった。全ての降りる人を待たずしてなだれ込むホームの人達。俺もそれにのっかって突っ込んでいった。
「いたた!痛い!」「押すなばか!」
言っても仕方のない言葉が飛び交う。
「あ!携帯が!」「あれ?かばん!!」
携帯もかばんも見つかることはないだろう。

俺はドアから1メートルくらいまでは行けたが、それ以上前に進むことはできなかった。
この期に及んで中からアニメおたくみたいなメガネが
「降りたいんデスケドー、僕降りますー。ちょっと、降りたいんデスケドー!」
と叫んでいる。無理だ。君は降りられない。変に大きなリュックが邪魔とかいう問題ではなく君は降りることができない。

俺はさっさとあきらめ、駅の外に出た。もうタクシーで帰るしかない。今日スロットで勝ったお金がチャラか。まあ、あぶく銭だしよしとするか。いたしかたない。などと考えながら、靖国通りまで来た。

なに!?
無茶苦茶人がいる!1時なのに。いくら年末で忘年会シーズンとはいえ、こんなにもか。クリスマスイブでもないのに。しいて言えば「天皇誕生日イブ」なのに。そうか、山の手があんなだったからそいつら全員がここにいるのか。

凄い量のタクシーが通ってはいる。だが、全て客が乗っている。しかも通りのサイドにずらりと並んだ人達が右手を挙げている。ちょうど俺の前に空車が止まってくれるとは思えない。

しばらくうろうろした結果、東口交番横のタクシー乗り場で待つことにした。50人ほど並んでいたが、ここなら必ずいつか来るのだ。なにしろ「タクシー乗り場」なのだから。

並んだ客を整理する係のようなおっさんが「どこまでです?」と皆にアンケートをとっていく。近い人間を相乗りさせる為だろうか。ためしに
「これくらい並んでたら何時になりますかね?3時すか?4時すか?」
と聞いてみた。おっさんは
「あはは。3時ってことはないでしょ。今1時過ぎですし」
と言った。そうか。3時ってことはないのか。

タクシーを待った。ずっと待っていた。
しかし、タクシーはこない。タクシー乗り場にタクシーがこない。
ただ、前の道をタクシーは「通る」。これがいただけない。ロータリーを使ってUターンする為だが、いちいちぬか喜びしてしまう。みんな「来た!」という顔をするが、ことごとく乗車済みだ。手の届かない希望。

そうだ、ミクシィでもして気を紛らわそう。そう思い、ミクシィモバイルに接続して日記を書き込んだ。そして、大喜利のコミュニティーに書き込みでもするかとクリックすると、赤いボーダフォンのマークが出てそのマークが縮んでいった。
充電が切れた。ばかな。唯一の暇つぶしツールを失った。もう一度言おう。ばかな!
誰かに電話して車を出してもらおうかとも考えたがそれももう叶わない。

2時になった。1時過ぎから2時までの間に止まったタクシーは実に2台。30分に1台計算だと!?ありえるのか?まあ、今はまだ終電を逃した人でごった返しているから、もう少ししたら早いペースで来るかもしれない。

2時半になった。何台かタクシーは来たし、諦めてどこかにいった人もいる為、俺の前の人数は30人くらいになった。でも30人だ。しかもほとんどがソロだ。ああ・・・
俺の後ろの女性は、ずっと友達と携帯でしゃべっていた。
「あはは!そーなのよ。その口のくさい人とデートした訳よ。でさー、その人の車に乗ったのね。したら口くさい訳じゃない?窒息しそうになってさー!で、窓開けたら『寒いから閉めといたほうがいいよ』だって!お前がくさいから開けてんだって話でさー!あはは!」
少しおもしろい。その女性の声だけが辺りに響いている。

2時45分、彼女はまだしゃべっていた。
「あはは!は、は、え?・・・あー・・・寝るの?あ、そーだよね。なんかごめんね。付き合わせちゃったね。うん、大丈夫。じゃあねー・・・」
本当に、それはもう本当に残念そうな顔で電話を切った。
本当に静寂が訪れた。
眠らない街が眠った。ここは新宿ではないのか?日本一栄えている駅のすぐ隣にあるタクシー乗り場。日本一多くのタクシーは、来ない。

3時になった。前には19人。ポケットから手を出すと冷たいを通り越して痛いのでタバコを吸うのもままならなくなってきた。
さっきの係のおっさんがやって来て「どこまでですか」とまた聞いていく。なんだお前。誰一人として相乗りしている様子はない。それにこのおっさんが、さっき3時にはならないって言ったから並んだのに。軽く越えてるやないか。まさかお前、道楽でやってんのか!?聞いてみてるだけか!?

横を女の子が関西弁でしゃべりながら通って行った。すると俺の前の二人組の兄ちゃんが
「お、関西弁やんけ。こっちで関西弁の女見つけると嬉しなんねんなー」
と言った。
暇すぎるので、何か話しかけてみようと思い
「あのおっさんアンケートとってる意味あるんすかねー?」
と、関西弁で言ってみた。
「あーよーわかりませんね」
一瞥もくれずスカされた。関西弁の「男」はいらんかったようだ。
こんな唇にピアスを付けた、とがった靴を履いたやつらになんて話かけるんじゃなかった。気まずくなった。

前の兄ちゃんの内一人が
「俺別のとこ行ってタクシー捜してくるわ。つかまったらこっち回すからお前はここ並んどってや」
と言って、どこかに消えていった。それはコンビならではの名案だ。
5分後、前の兄ちゃんに電話がかかってきた。
「ほんまか!グッジョブや!まじお前グッジョブやわ!」
そう言ったかと思うと、前にタクシーが停車し、相方が「よっ」と顔を出した。
「グッジョブやろ?」
「ほんまグッジョブやで。まじでグッジョブ!」
列に並んだ人間が恨めしい目で見守る中、二人はさっそうと帰って言った。俺はグッジョブという言葉があまり好きではないので輪をかけてムカついた。
俺は前から5番目になった。

3時45分。漫画喫茶に行くということを考えなかった訳ではない。一人で飲みに行こうと思わなかった訳ではない。だが、もしも列を抜けて街に繰り出したはいいが、終電のトラブルの影響で、どこもいっぱいだったなんてことになったら全てが水の泡だ。
それに5時には始発が走り出すというのに、俺の後ろには50人ほど並んでいる。彼らは俺よりバカだ。ならば一緒になってバカを貫こうと決めた。
あきらめて漫画喫茶に行った話より、朝までタクシーを待ち続けた話のほうがおもしろい。
そしてジャスト4時、俺のタクシーが来た。

深夜、極寒の新宿で、俺はこんな文章を組み立てていた。