ズルくて賢い | 快児オフィシャルブログ「快児ワードファクトリー」Powered by Ameba

ズルくて賢い

この前電車に乗ったら、一緒の駅で乗ってきたおっさんが、座るなり床に落ちているなにかをバンッと踏んだ。
と同時にハラリと別のなにかを手から捨てた。足の下からなにかをとる。満足げな表情。
この間1秒。一瞬だった。
俺はおっさんが捨てたものを凝視した。
一番安い切符だった。
おっさんは一番安い切符を買って、落ちてた切符と取り替えたのだ。
賢い。一番安い切符よりは高いか同じ値段の切符しか落ちてないわけだから。もし見つからなかったら乗り越し精算すればいいだけだ。
いつもやってるんだろうなー。ずるい。

ずる賢い。
中学2年の頃、とてもずる賢い事をした。
俺は腕時計のGショックがとても欲しかった。一番欲しいのはボタンを押すと青く光り、赤い模様が浮き出て、液晶が様々なパフォーマンスを繰り広げるかなりごついやつ。定価は1万5千円だ。
家で昼食を食べながら母に、この前時計屋でめっちゃかっこいいの発見してやーみたいな話をした。どうせ流されるんだろうと思いながら。
しかし母はめずらしく
「そうかー。あんたそういえば何にも時計持ってへんかったな。じゃーこーておいで」
と言った。そして1万5千円をポンとくれた。
ばかな。こんなに簡単にお金をくれるのか。言ってみるものだ。必需品なら買ってくれる家だったのか。

1万5千円は大金だ。どきどきしながら俺はそのお金を握り締め、大阪にある時計屋に出かけようと家を出た。

すると家の前で、近所の丸本という友達とばったり会った。
ん?
丸本の腕で何かごつい物が黒光りしている。
な・・・
なんと、俺の欲しかったGショックをはめている。
そういえばその店には彼と一緒に行ったんだった。
二人して「あれかっこえーなー」と言ってたのだった。
先に買われてしまった。くそう・・・

そんなことを考えていると丸本はこんなことを言った。
「これなー、おととい買ったんやけどもう飽きたわ。売ったろか?」
耳を疑った。もういらないというのか。こんなにもかっこいい時計を。
俺は聞いた
「いくらで?」
「8000円」
・・・・・まじでか!そんないい話はない。二日しか使ってない1万5千円の物がほぼ半額とは。

商談は即成立した。一時間かけて宝塚から大阪まで出るつもりだったのに、家を出て10分で、家から50メートルのところで、お目当てのGショックは俺の腕にはまった。奇跡だ。

そして、7000円が残った。目的の物は手に入った。なにも怪しくない。貰ってしまおう。そう決めた。

大阪まで往復したくらいの時間をその辺でつぶし、俺は上機嫌で帰宅した。
母に「かっこえーやろ?」とか言って見せびらかし、Gショックを着けたまま風呂に入り、Gショックを着けたまま寝た。

朝起きて、朝食を食べている時、俺はおもしろい話を思い出した
「おかん、ちょー聞いてや。丸本めっちゃあほやねんで!これもう飽きたとか言って8000円で俺に売っとんねん!」

あほすぎた。めっちゃあほは俺だ。お金をちょろまかしたことをすっかり忘れ、1万5千円をくれた本人に事実を伝えてしまった。寝ぼけていたのか、ほうけていたのか。

母はあきれてものも言えないといった様子だった。
しかし、その後苦笑いしながら
「得したなー」
と言った。
お金を返せとは言わなかった。

ずる賢い、いや、ずるアホい思い出。