三沢光晴という人
エルボー
フェイスロック
ドロップキック
フロッグスプラッシュ
タイガードライバー
タイガースープレックス
彼の得意技たち。
そして彼の必殺技
エメラルドフロージョン
二代目タイガーマスクである三沢光晴と、二代目ブラックタイガーであるエディ・ゲレロが好きだった。
が、そのどちらもが死んでしまった。
三沢選手が亡くなってから、一夜が明けた。
初めは「信じられない」「嘘だろ?」といった思いでいっぱいだった。でも朝起きて、ようやく彼の死というものを受け入れることができた。もちろんまだもやもやした気持ちは抜けきらないが。
バックドロップ
のけぞるようにして相手の後頭部をマットに叩きつける技。少し前まではただの繋ぎのべたな技だった。が、最近は後頭部をほぼ垂直に、受け身のとれないエグい角度で放つのが主流となり、フィニッシングホールドに使う選手も多くなった。危険極まりない技。
三沢は受け身の達人である。その三沢でも受け身のとれない技になってしまった。
ゾンビ三沢。
どんな技を食らっても立ち上がってきた三沢。
小橋の、ハンセンのラリアット、川田のジャンピングハイキック、ゴディの場外でのパワーボム、ウイリアムスの殺人バックドロップ。
そのどれを食らっても立ち上がってきた三沢。
昔あるライブで楽屋が一緒になり、ミーハーにも写真を撮ってもらったことがある。
俺が
「フェイスロックかけた状態でお願いします」
と言うと
「いいよ」
と、気さくにもフェイスロックで俺の顔面を軽く締め付けてくれた。
そこで三沢さんは
「あ、でもこれじゃあ君の顔が見えないよ」
と言った。
当たり前である。顔を腕で覆う技なんだから。
俺はなぜか変にテンパり、
「あ、じゃ、じゃあ、あの、普通でいいです。普通で」
と、ど素人のようなことを言った。
その写真は家の宝物入れにしまっている。
あのフェイスロックはもう見れないのか。
あの前髪についた汗をぴっぴっと指先で払う仕草はもう見れないのか。
あの白くてぷよぷよの体のくせして、恐ろしく見事なフォームのドロップキックはもう見れないのか。
あの必殺のエメラルドフロージョンはもう見れないのか。
もうゾンビのように立ち上がってはこないのか。
いや、ゾンビは死んでから立ち上がるものだ。
三沢コールが鳴りやまぬ限り、
彼は何度でも立ち上がる。
三沢はきっと、
カウント2.99で、
今回も肩を上げるはずだ。