※ 黄泉のツガイ 10
”戦時下の国民”という言葉を思い出す。
戦争が始まると、戦いそのもの以外にも、様々な形の悲劇が起こる。死が日常的なこととして襲ってくる。親が子のことを、子が親のことを考えざるを得ない。
ハナは、影森家のジンの店に呼び出された。
ジンは、不幸にも、戦いに巻き込まれて死んだ庭師の遺体の埋葬を、秘密裏にハナに依頼した。父ゴンゾウの反対を押し切っての事だった。だが、ジンとハナは、遺体の話をきっかけに、アキオの臭いを追い、西ノ村勢力のアジトを突きとめることができることに気づいた。
ハナが遺体の埋葬の依頼されたことが、図らずも、人を戦闘へと導いていく。
東村からハナのアパートに帰ったユルは、幼いアザミから、なぜ村に帰れないのか、詰問される。それを見ていたザシキワラシ2人。
ザシキワラシも、母である主から、ユルの持ち帰った手紙を通じて、村に戻るな、と命令された。2人を思っての命令であり、ザシキワラシは悲嘆にくれる。
同時に、アザミを父のもとに帰せば、村の状況から考えて、人の死を願う人間に育つことが分かっている。ユルがアザミを村に戻すことができないこともザシキワラシには理解できる。
そんな生活のアパートに、影森家からの報告が届く。戦闘の準備は整った。
一本の矢がアキオの肩に突き刺さり、東村勢力と西ノ村勢力の戦争が始まる。
ユル達がアキオ、イワンと戦っている間に、戦いは他の場所へもひろがってゆく。
影森の屋敷に現れた西ノ村の御陵(みささぎ)の戦い方には、いかなる容赦もない。ゴンゾウとジンは御陵 に対して窮地に立つ。

最後の頁にある、今まさにユルが矢をつがえようとしている頁半分ほどのコマには、左さんの、
<( 今日は月夜ではないぞ )
( 夜の名を冠する我が主(あるじ)の攻撃 )( 躱(かわ)しきれるかな? )>
のセリフがある。
漆黒のバックの中に、陰影の刻まれた顔、弓矢、手が浮かび上がった迫力満点の一コマは、ゾクッとするほど、カッコいい、と感じる。だが、それよりも強く感じるのは、あえて据わりの悪さを感じつつ言うとすれば、とてつもない不穏な気配である。
*荒川 弘 著 『黄泉のツガイ 11』
あらかわ ひろむ よみのつがい 11
ガンガンコミックス 株式会社スクウェア・エニックス
2025/11/12


