警視庁警備部特殊急襲部隊SATの班長である伊吹薪彦(いぶき まきひこ)警部と班員の 藤崎塔子 (ふじさき とうこ)巡査部長は、その日の仕事の打ち上げに、裏通りの居酒屋の個室で飲んでいた。
部屋の備え付けのテレビのニュースで、自分たちの仕事が放送されるのを楽しみにしていると、先日のハッキングについて、ハッカー集団からテレビ局充てに送り届けられた英語のメッセージが放送された。

メッセージの概略は以下の通りだった。
およそ三十年前の中国で、遺伝子操作によって一群の子どもたち、デザイナーベビーが生み出された。知能指数は180を超えるが、彼らの寿命は普通の人より短い。
中国政府は子どもたちが成長した後、主要国の中枢に送り込み、スパイ活動をさせていた。だが、中国共産党の方針は変わり、全員が粛正されることとなった。しかし、ロシア、インド、イギリスのメンバー3人は、暗殺者の手を逃れ、日本に潜入し、「ギフト」と名乗った。
<『我々の命は、残り十年ほどと言われている』 …略… 『我々はその十年間を、誰かの命令で動く武器ではなく、普通の人間として生きたい。虐げられるだけのフランケンシュタインのまま終わりたくない。たった十年だが、普通に仕事をして、社会に貢献し、平和の中で生きたい。一人の人間として生きたいんだ』>(31-32頁)

日本政府はギフトの事件に対応するための組織の一部として、伊吹と藤崎、そしてCIAの職員から成る三人のユニットを作った。CIAの職員は、美貌の若い女性であるが、 ギフトと同じ出自を持つデザイナーベビーである。ただ早くから中国の呪縛からは解放されていた。
伊吹たちは、ギフトの起こす事件の捜査に飛び込んでいく。

「一人の人間として生きたいんだ」という願いは、どんな形をとるかわからない。
読者の前では様々な事件が起こっている。誘拐事件、SATの大量毒ガス殺人等々。登場人物も、日本側、中国側、アメリカ側、不明勢力と多岐にわたる。事件一つ一つが、時にゆるく、時に固く結びつく。

過去に起こった事件も多い。実際に、誰に、どんな問題が起こり、誰がどう対応したか。過去に起こった事件こそ、「一人の人間として生きたいんだ」というギフトの願いを形づくったはずである。
現在の事件はどうか。ギフトの願いとどう関係するのか、あるいは関係しないのか。どう考えるかで、対応策は激変する。

作品を読みはじめて、気がつくと、文庫本の残り頁が思わぬ量まで減っていた。だが、結末がこうなるだろう、という予測が全然立たない。ふしぎな感覚だった。

そして…

そして、最後に、「普通の人間として生き」られるかもしれない時間が始まる。


*穂波 了 著 『裏切りのギフト』
 ほなみ りょう うらぎりのぎふと
 双葉文庫 株式会社双葉社 2026/2/11