滅んだ町を進む、ミィとロン。
おそらくかつては、町の目抜き通りだったであろう道を進みます。
道はミィを10人足しても足りないくらいの広さがあります。
両脇には、建物があった跡が見てとれます。
かろうじて壁であったであろうものもあれば、
地面からちょっと出っ張っただけの石ころが線を為しているだけのものもあります。
ミィは、すっと目を閉じます。
行き交う行商人、買い物をする親子、呑んだくれた老人もいます。
家や店は多少くたびれてはいてもきちんと建っていて、通りの奥には噴水も見えます。
過酷な砂漠の地にあっても、活気にあふれた町がそこにはあります。
ミィの頭の中でだけ、蘇るのです。
しかし、目を開けるとそこにあった素晴らしい風景が、無残な現実によって掻き消されてしまいました。
「ミィ、どうしたんだい?疲れたのかい?」
ロンが心配そうにミィの手を引っ張ります。
「ロン、ここはとても悲しい場所ね。」
ロンの心配をよそに、話します。
「ここにくるまで、色んな所を見てきたけど、ここはかなり悲しい場所よ。」
ミィは哀れみの表情で町を見渡します。「だって、ここは捨てられてしまったのでしょう?要らないものにされてしまったのでしょう?」
「ミィ、砂漠で生きるっていうのは大変なのさ。色んな色んな事が大変なんだよ。」
勿論、砂漠に限った事ではないけどね、そう付け加えます。
ぴょんぴょんと跳ねながら進む、ロン。
やがて道は、開けた場所へ行き当たりました。
地面には、大きく整形された石が円形に埋められています。
その中は、スプーンで掬ったかのように球状に掘り下げられていました。
「どうしようもない砂嵐に襲われる事もある、ある日突然水が枯れてしまう事もあるんだよ。」
ロンは、おそらくは湧水地であったであろうその場所にしゃがみこみ、
手に砂をすくいとりました。風が吹き、それを遠くへ飛ばしてしまいます。
「ミィ、町は町だよ。それ以外の何者でもないんだ。人が住む、それが町の意味さ。」
ロンは迷うことなく、断言します。いつものロンと少し違うみたいです。
「でも、そらならやっぱりここは死んでしまった町だわ。」
「ミィ、町は生きたり死んだりはしないよ。そこに住む者がいるかいないか、その違いさ。」
辛そうに呟くロン。
「じゃあ、町自体には意味なんてないの?」
ミィは問い詰めます、少し怒っているのかもしれません。
「ないよ。そこを必要とする者がいなければ、意味なんてない。」
冷静に、ロンは言います。
「ロンは、意外と薄情なのね。残念だわ。」
ミィは、結構がっかりしたのです。ロンはもっと明るく楽観的で前向きにものを考える、とミィは思っていたのです。
「勘違いしちゃいけないよ、ミィ。重要なのは、命が生きるってことなのさ。」
たしなめる、というより諭す様にロンは語ります。
「どういうこと?」
やっぱり調子の違うロンに、ミィは思わず怒りを忘れて問い返します。
「町がヒトを生かす事ができなくなったら、それはもう町じゃないのさ。」
クルっと身を翻して、遠く空を仰ぐロン。
「ヒトが生きてれば、町はまた作れる。でも町はヒトを作れないんだよ。」
背を向けたロンの表情は読み取れません。
「それは・・・確かにそうね。」
ミィは、ロンがどう言いたいのか、だんだんと分かってきたような気がします。そして、もうひとつ気付いたことがあるのです。
「ここを捨てたヒトたちだって、好きで出て行った訳じゃあないと思うよ。止むに止まれぬ事情があったればこそさ。きっとね。」
そう言いなが振り返ったロンは、力ない優しい笑顔をしていました。でも、それはとても悲しそうにも見えました。
「うん…そうね。」
ミィは、もうロンの言うことを黙って頷いてあげるくらいしかできなくなりました。
ロンはもしかしたら、同じような経験をしたことがあるのかもしれません。
大好きな大好きな場所を捨てなくてはならなくて、それでもどうしようもなくて。
そんな経験をしたことがあるのかもしれません。
ミィには、想像するしかありませんでしたが、それはとても辛いことだな、と感じました。
ミィはちょっと悲しくなって俯いてしまいました。
それに気付いたらしいロンは、こう言います。
「でも、多分ここを出て、どこか新しい地で新しい町を作っているに違いないよ。そして、そこはきっと素晴らしい所なんだよ。」
いつものロンです。明るく前向きな大好きな友達に戻っていました。
その時です。
「そいつは、どうじゃろうなぁ?」
広場の奥にある朽ちたモニュメントの影から、黒い塊が物凄い速さで飛び出してきたのです。