美術室へ向う。6組、5組、4組と経過。十字路を曲がる。渡り廊下中ほどで予鈴が鳴る。
向こうから男子が何人か駆けてくる。
「あ。」
目ざとい沢森。ニヤニヤする吉田。男子たちの一人は毬栗の田中だった。
田中もこちらに気づいた。
今更だが、私は今ミイラ女なのだ。包帯グルグル巻きなのだ。
田中に限らず、私を視界に入れた者は必ずこちらを見る。
奇異の目、憐憫の目、種類は様々だ。私は歌わないローレライ。
「おい、田中。中西さんだぞ。」
粗野な感じの男子は毬栗を肘で小突く。よろけ慌てる毬栗。
「なんか言うことあるべ。」
今度は長身の・・・粗野な男子。隊長、今の所イケメンは発見されないのであります。
まぁ我がクラスの惨状を見れば、この学校のランクなど、たかが知れているというものだ。
「えーと・・・あの・・・。」
汗だくな毬栗。焦燥と、あとは昼休みを満喫し過ぎたせいだろうな。
バスケットボールを抱えている毬栗。両の手でコロコロ、グルグルとボールをいじって俯いている。
「けっ、怪我の具合はどうですか?」
「ああ、うん。別に昨日と変わんないよ。」
適切な間隔よりちょっと遠めに控える外野陣。
「そうですか。よかったです。」
嫌だなぁ。まるで見世物パンダじゃないか。
「昨日は悪かったね、気ぃ使わせちゃって。」
ニヤニヤと生暖かい視線。
「いや、元々は自分が。」
ヒソヒソと交わされる密談。
なんなのよ、一体なんだってのよ。みんなして!
「・・・。」
「・・・。」
お互い詰まってしまう。
野次馬の目、学校という閉鎖空間。誰にでもある日常、されど非日常。特殊な場。
昨日はフツウにお喋りできた関係も、今日のこの場では成立はしない。そういうものだ。
何を話そう。どう繋いだらいいのだろう。そんな焦りが二の句を告げさせない。
沈黙。対峙。気まずい。気まずい以外の何者でもない。
「あ、あの!」
意を決して次の手を打つ毬栗、だが打開策は怒声に遮られる。
「田中ー!」
「ラブコメってる場合じゃねーぞ。」
「授業!授業!!」
「中西も早く!」
「本鈴鳴るよー?」
廊下の両サイドで騒ぐ男性陣、女性陣。いつの間に。
きっと光速度での移動に成功したに違いない。
それとも時が止まっていたとか?なんだかイマイチよくわからない相対性理論に基づいて?
動くものと止まっているものは時の流れがチガウのよね・・・確か、って!
んなこと考えてる余裕はない。
「田中くん、またね!」
そう言い放ち駆けだす。
「ぇ、ぁ・・・はい!」
応えて駆けだす、毬栗。
反対方向に向って、駆けだす二人。加速度運動しながら、離れ行く二人。
かくして、共有されていた時間はそれぞれの時間へと戻る。
加速度運動は、やがて光の速さへ、最高速度の等速運動。
廊下を駆け抜けたら、あとは階段を登るだけ。
ひとつ飛ばしで駆け上がる。リズムよく、跳ねる。
乙女の恥じらい?知ったことじゃない。
今はこの天国への階段を駆け上って、約束された地へと赴かねばならない。