翌日、登校すると予想通りのベタな展開が待ち受けていた。
グルグル巻きの痛ましい姿を奇異の目で見る同窓の友たちよ。
そんな目で見るのはやめておくれ。
親しい友は駆け寄って慰めたり、からかったりしてくれる。
「大丈夫?」
「昨日のノート取っておいたよ。」
「どーせボケッとしてたんだろ?」
疎遠な友は、遠巻きに私を見てなにやらヒソヒソ話し合う。見世物じゃないぞ。
怪我して英雄になれるのは、小学生までだ。しかも男子限定。
小さな輪がやいのやいの騒いでいると、担任の飯尾が教室へ入ってくる。
すっ、と一瞥をくれる。蜘蛛の子を散らすように席に逃げ帰るみんな。
こちらも予想通り、飯尾は私に触れなかった。
必要ない事は一切しない人なのだ。
それとも毎日決まったペースを崩したくないのか。
ドアを開け、教室を冷ややかに見回し、生徒を威嚇したあとで、教壇に立つ。
いつもの流れなら、「おはようございます。」とだけ言い、即座に出欠を取り始める。
そして、まったくそのとおりな行動をとり、連絡事項を伝達し、一瞥し、去っていった。
きっと武丸先生だったら、「お?中西~、大丈夫か?無理すんなよ。」などと、
小さな優しさをプレゼントしてくれたに違いない。
不幸な7組よ、同胞たちよ。あと数ヶ月の辛抱だ。
「ねぇねぇ。」
背中を人差し指で突きながら、吉田が呼ぶ。
重心を後ろに移動させ、椅子の前足を浮かせながら振り返る。
吉田の姿は見えない。
そうか、左目塞がってるんだ。思わぬ不具。ええぃ、煩わしい。
右から振り返り直すが、どうも落ち着かない。
ようやく捉えた吉田はニヤニヤしながら、何か言いたげにしている。
「あのさー。」
「なに?」
「実は昨日沢森たちと一緒にアンタん家、行ったんよ。」
「え?」
窓際の沢森を見やると、こちらに気づいたようだ。視線が交錯する、ニヤニヤだ。
「お見舞いのつもりでさ。」
吉田は、益々ニヤニヤしている。
「そしたらさ、見ちゃったのよね~。」
もうそこまで言われれば何が言いたいかくらい分かるわ。
「果物籠下げた、田中君。」
「あぁ、そう。」
「で、どーだった?どうなのよ。」
この年頃の乙女はオバサンと同じくらいタチが悪い。
いや、女ってのは一生そういう生き物なのかもしれないわ。
自分にだってそういう部分がある事は否定する事は出来ない。
恋に恋する乙女たちの野次馬根性は誰にも自分にも抑制する事はできないのである。
「あのね、お見舞い。お見舞いよ?」
「へー。」
「ぶつけた本人が見舞いにやってきて何しようってのよ。」
「いやいや、姉さん。何がきっかけになるかわからないじゃないですか。」
ひひ、と楽しそうだ。
「出会いはまさに、”衝撃的”だしね!」
笑劇的の間違いでしょう。どれだけの確率で流れ弾に当てられたと思ってるのよ。
「もう勝手に言ってればいいでしょ。」
と、相手にするのをやめる。どうせ何をいったところで、
彼女の逞しい想像力は、如何なる回答をも回避してオモシロイ方向へ持っていけるのだ。
「なにムキになってんのよ、冗談冗談。」
再び背中をつついてくる。
その時、1時限目の物理教師の佐野が、勢いよくドアを開けて入ってきた。
あっ、と吉田もそれに気づいて鞄を漁りだす。
煩い嘴から解放された私は、何の気なしに窓の外を眺める。
どこかのクラスが校庭で準備体操をしている。
朝から大変な時間割だな。
空はどんよりと曇り、一雨降りそうな気配をうかがわせている。