どこかが欠けたお月さん。ウサギが跳ねそこなう。
常夜灯の下、ベンチでたたずむ愚か者が独り。
小さな公園。ブランコ、シーソー。
こぼれる家々の灯り。
聞き取れない声、笑い声。ひそひそ話。
そこかしこに輝いている、人々の繋がり、命。
愚か者には、それが眩しくて仕方がない。
眼をそらす。空へ、高みへ。みつめ返す、真円ではない、月。
懐から取り出される煙草。気を紛らわせる道具。
哀れな愚か者は、嘆く、懺悔する、決意する。
『
わかってる。頭では理解している。
ボクはもう、キミを失った。
一度目のキミを、ボクは見逃した。
遠くから見て、焦がれて、逃げ出した。
やがて時を経て、場所は変わって。
二度目のキミに、会うことができた。
キミに、ボクは挑んだ。
キミは受け入れてくれた。だがやがて、ボクは捨てられた。
わかってる。あの頃のボクは最低だった。
流されるまま生きて、死にながら生きていたんだ。
キミを守ると決めたのに。それは間違っていたんだね。
守る事が、必ずしも幸福へ至る道ではない。
キミは戦えと言っていたんだ。聞こえない声で、言ってくれていたんだ。
ボクには聞こえなかった。愛情と妄執が耳に、心に蓋をしていた。
一緒に戦うことがキミの望み。
でも、あの頃のボクはキミを守る事こそが、使命だと感じていたんだ。
それは違ったんだ。
守ると言っておきながら、キミの夢に縋りついていたんだ。
自分では手を下さないで、
キミの成功を、キミの挫折を、
キミの強さを、キミの弱さを、
見守って居たかったんだ。
卑屈で卑怯なボク。
守ってさえいれば、やがて幸福に行きつくだろうと、信じていた。
最低だ。捨てられて当然だ。
ボクも捨てよう。あの頃の自分の愚かさを。
過去の自分をまるごと切り捨てる事は、ボクには出来ない。
だからせめて、受け入れよう。愚かしいボクを。
だからせめて、取り戻そう。諦めた夢を。
無様なことかもしれない。結局は捨てたはずの夢に縋っているだけなのかもしれない。
でも、今はただ、挑みたい。純粋にそう思うんだ。
みっともないけど、今したいと思うことはこれしかない。
だから、もう曲がらない、折れない、負けない。
一生懸命な者を笑わない、ひたむきな者を嘲ったりしない。
誓おう。そして、キミにサヨナラを言おう。
一時の愛情と、再起の決意をもたらしてくれたキミに、ありがとうを言おう。
そして、まだ見ぬ三度目のキミがいつか、どこかで待っていてくれるなら、その時は。
』
流れる雲は早い。黒い空に白い雲。
星は見えない。寂しい月が凍てつくまなざしを向ける。
無慈悲な斬光。哀れな自己陶酔の愚か者を引き裂いて。
格好付けだけの醜い矜持を打ち砕いて。
今はまだ、一人で歩ける事を思い出したばかり。