「失って始めて、君の大切さを思い知ったんだ!」

女にすがる情けない男の決め台詞のように、私は左目を愛した。

「戻ってきておくれよ、もう一度やり直そう!!」

箸は獲物を捕らえない。テレビを見るにも変な気分。本を読むのも、日記を付けるのも、違和感。

右目と左目、一対で世界を捉える。立体感。意識してなかった。

独眼竜の正宗さんは、きっと片目を失ってなんかいないと思う。

ああ、伊達正宗様。ホントの所はどうなの。

青臭い弾丸は軽い脳震盪と、皮膚を多少引き裂いただけの軟弱野郎だった。

ただ、左前頭部から左眼窩部にかけての熱烈なキスは、私の左目を盲目にさせた。ヘタクソ。

煩わしい包帯ちゃんは、私を縛って放さないわ。


「全治二週間、若いからね。そんなもんでしょ。」

毬栗の一騒動が収まったあのあと、現れた医者の見立てによって、

左目には無期から2週間の拘留へと特赦が与えられた。


私が今何をしているかというと、家にいる。家で怠惰な休日を過ごしている。

左眼が閉じられているだけでさほどひどくもない怪我だと分かっているのに、母さんが行かせてはくれなかった。

大事を取ってとの事だったが、実際は体の良い家事手伝いにされた。

洗濯と留守番。大した事じゃあないけど、もっと病人扱いしてよね。可愛い娘を忘れてるの?

「じゃ、安静にしてるのよ。あ、洗濯物忘れないでよ。じゃ、お土産買って来るから。」

お見舞いに来てくれた叔母と一緒に買い物にでかけた母。捨て台詞を吐き、嬉々として出陣。

きっともう私のことなんて忘れてるわ、そうに違いない。逆にこっちが忘れてやるわと、

洗濯物をとりこんだあと、居間に寝転がる。

手だけ伸ばして、骨だけの炬燵兼テーブルからテレビのリモコンをとる。すかさず、スウィッチオン。

アンド、スウィッチング。1秒とかけず回す。回す回す。

ワイドショー、砂嵐、ワイドショー、ドラマの再放送、砂嵐、サスペンスドラマの再放送、地方局、

ワイドショー、砂嵐、国営放送、国営放送、砂嵐、砂嵐、砂嵐は各所に潜んでいる。

そのまま止めてみる、やがてブルーバック。結局二、三巡した後、最初のワイドショーで我慢する事に決めた。

見慣れぬ時間の、見慣れぬ番組。でもそれがあると知っている。なじめない。

でも、流す。BGM、耳をお慰めするためのテレビジョン。おやすみ、世界。私は眠りの世界に行く。

残った右目を閉じるだけ。安らぎの世界。

『ピンポーン。』

誰?こうも間の悪いタイミングで呼び鈴を鳴らしやがって。霧散する眠気。

インターホンに付け加えられた文明の利器がその四角い面に、外の世界を映し出す。