「絶望しているか?」
河を2つ越えて、3つ目の山の中で、不意に訪ねられました。
その不吉な問いは、ミィの右手に見える穴…岩壁に走った亀裂…から聞こえてきました。
恐る恐る覗いてみると、中にはお爺さんがいました。
日の入らない、その穴の中で、おじいさんは真っ黒に見えました。
中に入ったミィも真っ黒でしたが、おじいさんはもっと真っ黒で、黒という色と溶け合っているようでした。
「絶望しているかね?お嬢ちゃん。」
おじいさんはもう一度同じ事をききました。ミィはびっくりして何も答えられなかったのです。
「ゼツボウってなに?」
勇気を振り絞ってミィはおじいさんに聞きます。
「希望を失っているかということじゃよ。」
「キボウってなに?」
おじいさんの答えにも、わからない言葉がでてきました。
「希望ってのは生きる理由さ。」
「私は死んでいないわ。動けるもの。」
ひゅひゅひゅ、とおじいさんの口から息が漏れました。
「そういことじゃないんじゃよ、お嬢ちゃん。」
ひゅ、とまた息が漏れました。そこで要約ミィは気づきました、おじいさんは笑っているんだわ。
ミィは失礼な人!と思いました。
「ワシだって死んでおらんよ、でも絶望しておる。」
「さっきから全然意味が分からない!」
ミィはだんだん、このわからずやのおじいさんが嫌になってきました。
「そうか。では、お嬢ちゃんはなんでここにいるんだね?お家はどうしたのかね?パパやママは?」
「パパとママがお家に帰ってこないの、だから探すことに決めたの。だからここにいるの。」
そうかいそうかい、とおじいさんは頷いているようです。
でも真っ黒なので、本当にそうしているのかははっきりわかりません。
「おじいさんはどうしてここにいるの?」
真っ暗だし一人だし寂しいじゃない、とミィは思ったのです。
「さっきも言ったろう、絶望しているからここにいるんだよ。」
「でも死んでないわ。」
「そうじゃ、死んでない。でも死んでるようなものなんじゃ。」
「死んだ人はお話できないわ。天国にいっちゃうんだもの。私、知ってる。」
「お嬢ちゃん、死んだ人は天国に行くだけじゃないんだ。地獄ってのもあるんじゃよ。」
「私だってそれくらいのことは知ってるわ、悪い事をした人はそこにいくのね。」
自信満面でミィは答えます。フフンと鼻まで鳴らしちゃいます。
「そうかいそうかい、賢いね。」
「おじいさん、悪い事したの?」
恐る恐るたずねます。
「ああ、色々やったよ。脅したり、騙したり、盗んだり、殺したり、たくさんさ。」
生きるためには仕方なかったんじゃ、おじいさんはそう続けます。
「それじゃあ、地獄にいくことになるわね。」
仕方ないは、とミィは考えます。嘘をついたり、人から何か盗ったり、人を傷つけてはいけないとママから
いつも言われていました。
「そうじゃ、でももういるんじゃよ、地獄に。」
おじいさんは、変わらぬ調子で続けます。
「生きてるのに地獄には行けないわ。」
「ここが地獄なんじゃよ、お嬢ちゃん。」
優しく、でもとてもとても疲れた声で、おじいさんは諭すように言います。
「それはおかしいわよ、私もおじいさんも死んでないもの。」
「だから、今いるこの世が地獄なんじゃよ。」
おじいさんの声は、泣き出しそうにも聞こえました。
「そんなのないわよ、私、悪い事なんかしてないもの。いい子にしてたもの。」
「そうじゃのう、お嬢ちゃんにはまだわからないのう。」
強制的におしゃべりを中断された・・・ミィにだってそれくらいは分かります。
「子供だからってバカにして!イヤなおじいさん!!」
ミィの心は怒りで満たされてしまいました、おじいさんとはこれ以上話していたくはありません。
「ああ、ジョウン・・・なんで逝っちまったんだい。おまえがいなかったら、ワシは・・・」
ブツブツとおじいさんは独り言を言い続けていましたが、ミィは聞く耳を2つとも押さえて走り出しました。