日も暮れてきて―



握り続けていた
父の手。

さっきより冷たい気がする…。


呼吸も、少し静かになったと思ったら


パタパタと看護師さんがやってきて

先生を呼んで来るって。


心臓も、呼吸も、脈拍数も下がってきた。

○私
「うそ…ちょっと!お父さん?!」


もう…いってしまうの?



ジワジワ落ちる、機械の数値に

なすすべもなく…


お父さん!お父さん!


ただ、ただ、父を呼んだ。

どんな状態でも、父に生きていて欲しいけど


延命処置はしない。


苦しみが取れないままで命を延ばす事は、父は望んでいないと思ったから…。

でも…
もう、いっちゃうの?



呼吸は更に弱くなり
今にも止まってしまいそうな心臓。



担当の看護師さんは
泣きながら

「耳は最後まで残ってますから!語り続けてあげて下さい!」


目の前に、父の姿はあるのに
どんどん遠くなって
何処かへ行ってしまうのが分かる。


行かないで…。



お父さん!お父さん!

って叫ぶと
数字が少しだけ上がる。
皆の声に答えようと頑張っているかのように思えた。


母は、父に語り続ける。

もう、何の反応も示さない。

ああ…いよいよか…




○母
「お父さん。私、幸せだったよ!」





その時
父の、喉仏がゆっくりと
上へ、下へ
一回だけ動いた。


○母
「桃香!今、お父さん、『うん』って!」


私にも、そう見えた。

父が残した最後の反応。
必死に呼び掛ける母が起こした奇跡。




そして―
家族や、急遽駆け付けてくれた親戚らに見守られる中


本当に、火曜日を迎えることなく




静かに逝ってしまった。





お父さん。
お母さん泣いてるよ。

こんなに早く置いて行っちゃって、
可哀想だよ。







なんて…
安らかな顔…


そうか…




やっと
解放されたんだね。