しばらく
鏡に映る自分を
睨み付けるかのように
見ていた父。

ふぅーっ…

と、ひとつ大きく息を吐き
自分の部屋へと
歩き出した。


私は
その、少し後ろをついて行く。

手摺に沿って歩く父の後ろ姿が

とても痛々しく

逆光に浮かぶ、すっかり痩せてしまった父のシルエットは

光に消されてしまいそうな程に、細くて…。


涙が出そうになった私は


ちょっと、トイレ。



無理やり笑顔をつくって

部屋の、少し手前にある、トイレに身を隠した。

泣くな!
だめだ!絶対だめ!涙出るな!

必死に涙をこらえ、
なんとか気持ちを立て直し部屋へ向かった。


父は、ベッドに入らず
部屋をウロウロ歩いていた。


どうしたの?


○父「座るより、立ってた方が痛くないんだ。」


そう言うと

窓の方へ歩き
外を眺めた。


○父「あ、あの車、そうだろ?」


窓の下には、駐車場が見えていた。

すると母が

○母「そうよ、ここから見えるじゃない。たまには、ここから手を振ってみて。」

そんな母のおねだりに

父は照れた様子で、少し笑った。

○父「わかったよ。帰る時、ここから見るから。」



父の夕食が終わった頃

病室を出た。


駐車場に着いて、車に乗り込む。


桃香、ほら、お父さん!


母が、嬉しそうに
父の病室の窓を指差した。

青いパジャマを着た
お父さん。

約束通り、窓の所でこっちを見ている。


私は、ゆっくり車を走らせた。


すると、父は
手を振り始めた。


お父さん…
私の目は、ずっとこらえていた涙がいっぱい溜まる。だから、
ぼやけてあんまり見えないよ…。

何度も、何度も
涙を拭って


バックミラーを見ると。

父は、
まだ手を振っている。

母も、めいっぱいまで後ろを向いて、病院が見えなくなるまで

ずっと…
ずっと…



手を振り続けていた。