


過去にも材質で言えば、金蒸着のゴールド・ディスクやアートンなんかがあったが、どれも知らないうちに消えてしまった。その点から言えば今回の新素材、中でもSHM―CDは成功した部類に入るだろう。クラシック系に限らずJAZZ系やポピュラー系まで普及してきている。
早速、私も何枚か購入してみた。すべて、過去の録音で名演奏としての評価が高いものばかり。一聴して感じたのは音のメリハリが格段によくなっているということ。それも驚くほど鮮明になっている。音の輪郭がはっきりしてダイナミックレンジがかなり向上している。自分の現有のオーディオシステムがワンランクアップしたかのような劇的な変化。おそらくこのことはほかのユーザーも感じていることであろう。
これまで各メーカーはCDの素材よりリマスタリング技術で再発売してきたがどれも、さほどの変化は感じられず、EMIのように不自然なドンシャリをつけてかえって音を悪くしたようなものもあった。
しかし今回の素材は、少なくともそのような音質の低下は感じられず、わりと自然な感じで音質のみを向上させた感想を持った。これは買い替えになるが、めぼしいものは押さえておきたいという気にさせる。
ある程度聴きこんだ上で同じ演奏を他の素材のCDとの比較してみることにした。
始めにお断りを。こういう、オーディオ的な比較は言うまでもなく、どのようなシステムで鳴らすかによって全く異なってくる。入門コースのミニ・コンポからシステム全体数千万円までその範囲は恐ろしく広く、一般論で論じるにはあまりにも落差が大きすぎる。もっといえば全く同じシステムでも、そのセッティングによっても音は激変するし、その日の天気でも微妙な差が出てくることだろう。聴く側の体調によっても変わってくる。
このような状況の元での試聴ということをまずお断りしておく。あくまで今の自分の現有システムでのチェックであり、試聴の結果も当然のことながら私の個人的な感想である。
サンプルはベートーヴェンの7番交響曲。演奏はC.クライバー&ウィーン・フィル。この曲の推薦盤として必ず候補にあがる名演奏。ノーマル・CDとSHM-CD、そしてSACD(ハイブリッド 海外)盤の3種類。SACD盤については、SACDの再生装置を持っていないためCDレイヤでの感想になる。
ノーマルCDをまず聴いてこれを試金石にしてみる。何度聴いてもいい演奏。音質に関しても取り立てて不満なところはない。
次にSHM-CD。予想通り音のメリハリがくっきりして、明るく鮮明な音。先ほどのノーマルCDとは明らかな音質の変化。低域も十分に出ている。ノーマルCDとは劇的ともいえる変化。第4楽章なんかは音が乱れ飛ぶ楽章だが、まさに音符が宙を舞い踊るような立体感が味わえる。
そしてSACD(ハイブリッド)盤。先ほどのSHM―CDと比べるとおとなしい演奏。ほとんどノーマルCDと変わらないが、聴き続けていると弦、木管なんかの微妙な音のニュアンスなんかがわかるようになる。音に艶やかさ、みずみずしさが感じられる。何よりも、音が自然でデジタル的な刺激が少ない。アナログ・レコードを聴いているような感じ。
結果的にいえば、一番良かったのはSACD。SHM-CDは音の輪郭がしっかりしていて、華々しさがあるが楽器の微妙なニュアンスが若干苦手かな、と感じた。ただ、クラシックでも少々派手目な管弦楽、ムソルグスキーの「展覧会の絵(ラヴェル編)」なんかはSHM-CDのほうがいいかもしれない。
それにしても、昨今の不況の影響かこのごろのクラシックCDはビッグアーティストの新譜よりこのような音楽とは直接関係のないところで話題となっている。もともと評価の固まった名演奏をこういう形でリリースするのは営業的には成功かもしれないが、新しい血を注ぎ続けないといずれは枯渇してしまう。
「のだめ」ブームで息を吹き返したかと思われたクラシック業界も再び氷河期へ。こんな時代だからこそクラシック音楽への期待も大きいがなかなか現実は厳しい。