俺には姉がいる。

俺が中学生だった頃のある日。
母親が東京の親戚の家に泊まりで出掛けた翌朝、学校に行こうとしたら姉がすでに俺の弁当を作ってくれていた。

姉「お弁当作っといたよ」
俺「お、ありがと」

カバンに入れて学校に行き、昼になったので食べようと弁当箱を開いた。

!?

そこには黄土色?茶色?何とも表現しがたい色のグチャグチャの物体だけが横たわっていた。
俺の体は固まり、松田優作のあのセリフだけが脳内に充満していた。
『なんじゃこりゃー!』

「うわ!何だそれ!ゲロだ、ゲロ弁だ!」とH君が騒ぎ始めたので、俺は我に返って弁当箱を閉じたが時すでに遅し。皆にからかわれながら弁当を食した。

食べてみれば何てことは無い、カバンの中でシェイクされた“お好み焼き”だったのだが…
皆にからかわれた事と、弁当にお好み焼きをチョイスする不条理さゆえに、思春期の俺の怒りの矛先が姉に向かったのも無理からぬことであろう。

「ねーちゃん!何だよあの弁当!『ゲロ』って言われたよ!」

姉に散々文句を言った後、姉がつぶやくように言い返した。

「だってアンタお好み焼き好きじゃん」

俺の好物を弁当にしてくれた姉の優しさに気付いた俺は、それ以上何も言えなかったのであった。


以上、ロケ弁ならぬローゲー弁当のお話でしたおしまい