日英語表現辞典/最所フミ 編著 | もん・りいぶる21(21世紀のレビュー三昧)

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雑食性のレビュー好きが、独断と偏見でレビューをぶちかまします。

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森羅万象系ブログを目指して日々精進です。

2004年 筑摩書房(ちくま学芸文庫)

和英辞典の使いにくさは、リアルな使用場面を想定するというよりも網羅性に偏るからではないかと常々思ってしまう。
英語を読む場合、英語の背景にある文化を日本での生活シーンに置き換えるために脳の過半を使っているが、それは直訳を避けるうえでは欠かせない。
そのためには英和辞典だけではなく英英辞典を使うなり、英文の白読することである程度の対応はできなくはない。

一方で、日本語を英語に置き換える=英訳する作業には道具立てがどうも少なくて困ってしまう。
なにせ生きた表現、生きた用例がなかなか手に入らないからだ。
国民性、背景にある文化が違うことで、感じ方も異なる部分を埋める、たとえば語感についても日本の学校教育で最も軽視されている部分なので、本来の原語の役割であるコミュニケーションを十全に達成できないのが現状だ。
教師にも「語感」というイマジナリーな感覚は教えにくいものだろう。
なにせ、日本語の語感ですら、学校と自宅の往復では養成しようもないのだから。

ということで、この辞典が役に立つ。

例えば「未練」。適訳はないといいつつも、未練たらたらなひとの心情を読みつつ、attachmentを充てるが、用例ではさらにfeeling overを充てて語感と気分世界の一致を計る。

自国文化のニュアンスをいかに他の文化におきかけるかということの労苦を集めた集大成なのだ。

アメリカでの経験を豊富に持つ編著者にとっては、在来の和英辞典の欠点もよく目に入るようで、ここはこっち!といった苦言もよく顔を覗かせる。
その書き方も一方的に怒るというよりも、仕方ないわね、という雰囲気で頼もしくもある。

俗語も多く収録されている。
肩肘張らずに読み物として読むにもふさわしい。

そして、もうひとつの読み物は加島祥造による解説だ。
編著者の心のありようまでもを掬い上げた解説文の傑作も共に、この「快」作に快哉を送ろう。