HOME 愛しの座敷わらし
むかし、
岩手県の金田一温泉郷で
座敷わらしが出るという旅館に
泊まったことがある。
残念ながら精霊を見ることはできなかったが、
この映画に出てくる
古民家のように風情のある建物だった。
晃一(水谷豊)が独断で決めた
田舎の古民家に越してきた5人家族。
たった5人だが、
キャラクター的にはバリエーションがある。
田舎に来てのびのびとした
日々を楽しむ小学生の智也。
逆に田舎に馴染めない中学生の梓美。
不便な上に近所付き合いが鬱陶しく
盛岡市内のマンションへ移りたい妻の史子。
古民家の生活に
懐かしさを感じる晃一の母・澄代だ。
家族それぞれに新生活への
思いや鬱憤がある。
晃一自身もまた盛岡転勤の裏に
家族に言えない問題を抱えている。
なかなか歩み寄れない家族が、
あることを機にひとつにまとまっていく。
それが座敷わらしの存在だ。
ほんとうに居るかもしれないし、
居ないかもしれない。
自分らの中にあるものに悩むよりも、
皆に共通した出来事のほうが
家族がひとつにまとまりやすい。
心の内因はくすぶるだけだが、
外因は特定しやすく家族の誰にも
非がないから皆で協力しやすいのだ。
そう考えると、
座敷わらしという伝承は、
雪で閉ざされた山村で暮らす昔の人々が、
家族の和を願って考えついた知恵の
産物なのかもしれない。
いわば家族共通の宝物を創り上げたわけだ。
夏休みにキャンプに出掛けたものの、
父親がテントもろくに張れず、
ご飯も炊けず、
家族みんな不満タラタラだったけれど、
終わってみれば、
それはそれで楽しい思い出にもなる。
この映画はそんな感じの物語だ。
そんなライトタッチの作風に水谷豊と
安田成美はぴったりだ。
座敷わらしも可愛らしい。