わが母の記
(どちらかと言えば)
社会派として知られる原田眞人監督が描く、
昭和を舞台にした人間ドラマ。
アドリブのようにリアルで
矢継ぎ早な会話。編集テンポの速さ。
そして、
多くの情報量を伝えながら、
物語の細かな
伏線を観客に理解させられる卓越した説明能力。
やっぱこの監督さんは凄い。
加えて見事なのは、
日本独特の風景・
風習を納めた画の美しさ。
とりわけ季節毎に変わる木々の表情、
木洩れ日の美しさ、
終盤の海の雄大さは忘れ難い。
そして演技。
出演者みな素晴らしいが、
まずはやはり、
役所広司と宮崎あおい。
長い年月をかけて親子間の情が
移り変わってゆく様子が実に自然だ。
役所広司は、
格な性格が、
雪解けのように少しずつ和らいでゆく様が見事。
船での
「お前を見捨てる訳じゃないぞ」
という台詞は、
主人公の生い立ちの複雑さと
娘への深い愛情を同時に表した、良い台詞だと思う。
宮崎あおいも。
女学生役に全く違和感が無い点も驚きだが、
父や祖母に向ける疎ましさと
愛情の入り交じった言動、
姉妹や親戚達との会話の生っぽさと言ったら!
そして、
樹木希林。
老いてゆく様のリアルさ。
時に微笑ましく、
時に鬼気迫る演技。
演技も台詞も誇張せず、
どうしてあそこまで圧倒的な存在感が出せるのか?
息子の顔を忘れるほどに衰えてもなお、
ずっと捜し続けた息子の姿。
ずっと忘れられなかった息子の詩。
そして最後、
暗闇に佇む母。
初めて、
真っ直ぐに息子を見つめる母の眼。
幽霊であれ幻覚であれ、
あれは母への想いの深さの表れ。
涙せずにはいられなかった。
世の中で、
家族くらいに面倒な存在も無い。
家族は、重くて重くて仕方無いのに、
それでも
下ろしたくない大切な背中の荷のようなもの。
さいわい僕の親は、
背負う心配をするにはまだ早いようだが、
残念ながら今の日本は、
劇中のように、
沢山の親戚どうしで
互いを支えながら暮らしている時代ではない。
いつかその時期が来た時……
その時、
僕には親を背負えるだけの脚力があるだろうか?
あるいは、
背中から下ろす事に耐えられるのだろうか?
まだ分からないけど、
いや正直、
分かりたくもないのだけれど……
なるべく長く背負っていてあげたいと、
本作を観て願った。
素晴らしい映画です。