辞世とは、

「この世を辞する。この世を去る」

という意味ですが、

「死に臨んで遺す詩歌」

という意味もあります。

死に臨んで詩を遺すことは、

中国から伝えられました。

日本では南北朝時代に、

死を常に意識していた武士層によって、

和歌で詠むことが流行しました。

江戸時代には俳句でも詠まれるようになり、

辞世は庶民にも広まりました。

辞世の詩歌は、

死の直前ではなく、

あらかじめ作っておくことが普通でした。

次に挙げる豊臣秀吉の有名な辞世も、

十年ほど前に作っておいたものを、

時々取り出しては手直しをして、

このような形で遺されたのです。
   
露と落ち 

露と消えにし 

わが身かな 

浪速の事も 

夢のまた夢
 
また高杉晋作の次の辞世も、

最近の研究によって、

死ぬ一年近く前にはすでに

作られていたことが明らかになりました。
  
おもしろき

事もなき世を 

おもしろく 

住みなすものは 

心なりけり
 
辞世とは、

死ぬ覚悟であると共に、

生きる覚悟をも示すものだったのです。