アーティスト
モノクロ&サイレント、
そして擬似的だがスタンダード・
サイズによるラブロマンスものだ。
1927年のハリウッドの映画産業が舞台で、
ラスト近くの音楽では高域の歪みを
サラウンドスピーカーから洩らすという凝りようだ。
なんで今さらモノクロ&サイレント
なのだと思わないでもなかったが、
こうして観てみると、
台詞が聞こえない分、
行間を読もうとして、
いつもに増して映画に集中する。
1時間40分余りの上映時間、
音無しでもストーリーも主人公の
心情も理解でき飽きたりはしない。
ジャン・デュジャルダンは
スクリーンで存在感があり、
表情も豊かでいかにも
サイレント時代のトップ俳優という容貌だ。
ベレニス・ベジョはどんどん綺麗になっていく。
チャーム・ポイントにしたホクロはたしかに効いている。
犬のアギーの演技もよく、
スパイスの効いた笑いを取る。
執事のクリフトンもいい。
忠義心があって、
老人なのに意外に力持ちだ。
こうして観ると、
何でもかんでもストレートに
見せてしまいたがる昨今の
映画作りに疑問を感じる。
もっと行間を読ませる工夫をしてほしいものだ。
行間を読まなくなってしまった観客に媚びて、
映画本来の面白さを作り手が置き去りにしてしまっている。
音声、
色彩、
視覚効果というのはあくまで
補助であって映画の主幹ではない。
本来、
これらがなくても面白い映画を
作らなければならないはずだ。
そこに音声、
色彩、
視覚効果がプラスされて、
リアリティを生む。
本作に映画会社の建物を輪切りにした
セットのシーンがある。
階段を行き交うスタッフで映画産業の活気を表現し、
そのなかを輝きながら階段を駆け上がるペピーと、
気のない足取りで階段を
降りるジョージを対比してみせる。
このセットだけで映画産業の
時代の変遷を1枚の画にした工夫が見える。
そこにはもはや字幕さえ不要だ。
やたらに台詞や語りが多くて
状況説明過多なドラマだの、
高度なVFXによる映像ばかりで話が
ちっとも面白くない活劇だのは、
もういい加減うんざりだ。
なんで今さらモノクロ&サイレントなのだと
ケチをつけたところで、
この作品が新鮮に感じることは確かだ。
ただ、
これでもかと繰り返された予告篇の映像と、
これみよがしの音楽にはいささか食傷気味ではあった。
また、
「アカデミー賞獲りましたー」みたいなポスターも品がない。
最初の飾り気のないポスターのほうが風格がある。
何事もやり過ぎはよくない。
逆効果だ。