$鬼瓦権蔵の心の叫び 言葉遊び 道徳


ヒューゴの不思議な発明


邦題が

「ヒューゴの不思議な発明」

となっているが、

登場する機械人形はヒューゴが

発明したわけではない。

「ヒューゴ」の舞台となるのは殆どが

パリ駅の構内なのだが、

迷路のような時計台を絡めて、

たっぷりとした空間にカラフルに彩られた

人物や小物を配置し、

それを見ているだけでも箱庭的な楽しさがある。

静かに舞う塵(ちり)さえも、

3Dによって美しく描かれる。

スクリーンでは観たことがないが、

もういつの事だったか忘れてしまった過去に、

たぶんテレビだったのだろう、

「月世界旅行」

という動画を見たことがある。

モノクロでサイレントの

動画はぎくしゃくした動きだったが、

顔のある月面にロケットが

飛び込むシーンは忘れられないものとなった。

この動画こそ、

映画の原点で、

映画の原点はトリックだと知った瞬間だった。

今作「ヒューゴ」は、

“映画の父”と称される

仏映画監督ジョルジュ・メリエスとその代表作

「月世界旅行」への

オマージュがたっぷり込められた作品だ。

メリエスも「月世界旅行」

も知らないという人でも、

もちろん楽しめる映画だが、

映画技術の黎明期の知識が

少しでもあると、

より一層楽しめる作品だ。

スコセッシ監督は、

少年ヒューゴの冒険を通して、

『映画の原点とは何か?

今一度、思い起こしてみよう』

と呼びかけてくる。

映画は光と音の総合芸術であり、

その原点は娯楽でありマジックだ。

「空想を現実にする」

のがまさしく映画だ。

このスコセッシのメッセージが解らないと

「ヒューゴ」は平凡な作品に見えてしまう。

この作品に3Dは必要だったのだろうか?

たしかに「ヒューゴ」の

冒険そのものに不可欠だったとはいえない。

だが映画というのは、

その時々の最高の技術を結集した

技術革命の上に発達してきた。

主なものでも、

音が入り、

大型画面を手に入れ、

近代的なSFXとサラウンド音響を経て、

現代ではデジタル技術が取り込まれている。

その節目ごとに多くの

エポック・メイキングとなる作品が

世に送り出されてきた。

表現技術を革新してきた

映画の最新技術が3Dであり、

最新技術を駆使して作り上げることこそ、

現代の映画師スコセッシが

元祖映画師メリエスへ捧げる讃歌となりうる。

「月世界旅行」など名作の数々も

3Dで蘇るとは、

メリエスもさぞビックリしていることだろう。

また、

この作品では、映画は人類の財産であり、

その保管に心血を注ぐよう訴えている。

「ヒューゴ」はアカデミー賞で、

主な技術部門を独占した。

その陰で、

ひっそりと受けた賞がある。

映像を500年保存可能なフィルムを

作り上げた日本のF社が

【科学技術賞】を受賞したのだ。

今回のアカデミー賞でもっとも

誇らしい素晴らしい賞だと思う。

デジタル・データは、

まだまだ不安定なうえ長年に渡る

保存実績もないのだ。