Aさんは紅葉狩りを兼ねて、

夫婦で一泊の温泉旅行に出かけました。

軽井沢の観光地を巡り、

夕刻、

草津温泉の日本旅館に到着しました。

心地よい出迎えを受けた後、

さっそくAさんは露天風呂に入りました。

ふと壁に目を向けると、

木札が吊るされています。

そこには

「むしさんやはっぱさんがあそびにきたら、

そっとかえしてあげてね」と

書かれていました。

日本特有の

「おもてなしの心」が、

人間のみならず

虫にも落ち葉にも向けられていることに、

Aさんは深い感動を覚えました。

 旅館側のお客様に対する

「おもてなしの心」

で癒されたAさん。

客である自分も、

いつの間にか

「おもてなしの心」

で一杯になっていることに気づきました。

虫や落ち葉のみならず、

衣服にも履き物にも布団にも、

そして食べ物にも、

「おもてなしの心」

を向けている自分がそこにありました。

日々の忙しさに

振り回されていたAさんでしたが、

一泊の温泉旅行が新しい

旅立ちの日となったことに、

深い感謝の気持ちを禁じ得ませんでした。