海炭市叙景
本作に登場する人間たちは、
同様に「失速」している。
町の衰退に伴い、
仕事を失って途方に暮れる兄妹。
住み慣れた家からの立ち退きを迫られている老婆。
後妻との関係、
不倫に悩む男、
そして未来の見えない若い男。
彼等を見つめる視線は
徹底的に突き放した姿勢を貫き、
中途半端な折り合いや、
妥協を許さない。
容赦なく、
海の底に突き落とされたような
苦しみが物語に充満している。
まるで、
飲み屋で酒に酔った親父殿に絡まれ、
「ふざけんなよな~あの野郎・・」と
仕事の愚痴を延々と聞かされる倦怠感。
それでも、
この物語が観客を惹きつける魅力をもつのは、
絶望の中にささやかに振り掛けられたユーモアと、
調子っぱずれの音楽の力だ。
音楽は、
ジム・オルーク。
繊細に描かれる遠景や衝突の場面に、
ふわふわ、ゆらゆらした不協和音。
一気に心が砕かれるような痛みが残るはずなのに、
そこには安心感と、気持ち良さが同居している。
この、柔らかさには大いに助けられる。
そして、ユーモア。
「くじらイルカ占い」・・
何をしたいのか分からない占いを
唐突に挟み込んでみたり、夜も更けたバーで
くだらない話にて甲高く盛り上がるお姉さま。
ちょっと、吹き出してしまう。
絶妙なタイミングで「?」を盛り付け、
観客の心をゆるりと解いてくれる。
きっと、
私達の人生だってこんな感じなんだろう。
苦しかったり、辛いことはいくらでもある。
でも、きっとゆるりと切り抜けられるはずだ。
そんな小さな希望と幸せを、
力強く信じている作り手の想いが滲み出て、
嬉しくなる。
やはり、
居心地は悪い映画である。
ブラックコーヒーを
飲み干したようないがいがする感じ。
でも、そこに気付かないほどに入れられた砂糖が、
心地良い映画でもある。苦いだけでは胃にもたれるから、
少しの甘さが欲しい。そんな願いを、
作り手は重々理解してくれているようだ。
やっぱり、嬉しい。











































