

空気人形
心を持った人形は、
空気だけで満たされた
自身の体を忌み嫌って言った。
「私、空っぽなの」
それを聞いた孤独な老人はこう答えた。
「奇遇だねぇ、私も空っぽなんだ」
心を持った人形を通して見えてくるのは、
泣き出したいほどの虚無感に
苛まれる僕ら自身の姿だ。
沢山の人々が同じ不安を抱いて生きている。
自分みたいな奴を必要としてくれる人間が、
果たしてこの世にいるのか。自分は所詮、
誰かの代用品に過ぎないんじゃないのか。
世界に必要とされたい。
誰かにとって特別でありたい。
誰かを満たし、満たされたい。
この映画の登場人物は
皆そんな思いを抱えているが、
世界=他者と繋がる方法が分からない。
もはや繋がる事を諦め、
孤独に甘んじる者ばかりだ。
人形を演じるペ・ドゥナは人と
繋がる喜びと悲しみを全身で体現。
“女優根性”なんぞという言葉を
軽く飛び越えた、魂のこもった
演技で魅せる。その周辺の人々を
演じるキャストも皆、
恐ろしいほどハマっている。
朝方の澄んだ空気のような、
透明感のある美しい映像や
優しい音楽も素晴らしい。
飛び上がりたくなるほどの歓喜と、
心の奥底を抉られるような
深い悲しみとが同居した傑作。



