その事実は

いままで生きていたと言う証

生きている間は

生きているなんて思わなかったが

時おり泳いで居ると思ったが

それは当り前の事で大方は忘れていた

いま

腹を上に向けて

金魚は膨らんでいる

昨日まで何の事も無かったこの屋敷は

金魚が死んでいる

死んでいると

大騒ぎをしだした

未だかつて金魚のために

こんな大騒ぎをしたことはなかったのに

人も金魚も

死ぬ事によってはじめて

瞬間 他人の心の中に生き始め

あの尾ひれを揺らして泳ぐさま

とても美しかったのに

鮮明に

その姿を目の裏に

宿らせるのだ