底はこんなにも静か

こんなにも澄んで豊かに広い

希望や愛や恥じらいの

深い思惟(しい)の魚族が

つつましく楚々と泳いでいる

忘れられない一枚の画や

一つの彫刻

一編の詩

一人の人間が

深海の岩のうす青い懐かしさに

包まれている

ささくれ立った秋の海

すくいようもなくすさんでゆく冬の海

荒れ狂う嵐の海

のっぺりとした春の海

ギラギラと猛烈な太陽を映した夏の海

海は

その

純粋さの故に

季節の挑発をまともに受ける

いたいたしくむき出しになった表情の下に

いつでも

変わることのない

あの

脊髄液の様な

一つの世界を

古代の彫刻の様に

じいっとたたえている