風はを愛撫を

鳥は言葉を運んでくれた

人はただ眺めて通った

いつもながめ方はちがっていた

親しみだったり

愛だったり

情けだったり

憎しみだったり

いろいろな人が

いろいろな目でながめて行った

自分はいつも黙った立っている樹だった

立ったまま

眺める人を見る樹だった

人は樹の前では

いつも眺められていることを忘れていた

樹になっていると

何でもよく見えた

樹の前だと人はありのままの姿を見せたから

雨が降れば雨に降られ

風が吹けば風に吹かれるまま

自分は黙って立っている樹だった

そして

誰も

自分が樹になっていることを

さして気にも止めなかった