生きているものたちに眠りがあるのは

ただひとつの救い

ああ自分からその眠りを取り上げてしまったのは誰

自分はいま覚まされている

黒いからからの生命の底を見る

そこから

空腹のときに食物の事を考えるように

眠りのやさしさに飢える

それは

闇の中で浮き上がった花のような眠りだ

どこか遠い湖面のような眠り

母親の胸の様なぬくい眠りだ

それなのに

いまは眠れない脳髄の重さが

一個の物体のようにころがされ

焦りや不安やおう悩が

不吉な鳥のように寄ってきて

それをつつく

惨劇の終ることのないその小さな舞台

深夜

自分は

永劫(えいごう)のひび割れた闇の底から

よろよろと起き上がって

禁じられたひとつの扉を開くように

死と希望に

やわらかく味付けされた

文明の澱みような白い薬を飲む