ぶらんこ乗り/いしいしんじ(新潮文庫)

小説は、基本的にはフィクションであって、作家の創造の産物です。
それを承知で読者は小説を読む。作り話と分かっていながら読む。
でも、なんでその「作り話」に笑ったり、泣いたり、感動したり、
様々な思いが交錯するのだろう?
なぜこんなにもココロを揺さぶられるのだろう?

ちょっとひねくれた感想を言うなら、「上手い」の一言。
ホントはそれだけじゃないんだけど。もっといっぱいあるんだけど。
上手く言葉で言い表せない。ふわ~んとした感覚。
そう、ちょうどブランコがてっぺんで止まって、落ちる直前の感覚。
落ちるのが分かってるのに、ほんのわずか引力から開放される瞬間。
フィクションだと分かってるのに、ほんのわずか物語世界に浸る時間。
自分では、冷静なつもりでいるのに、気がつくと感情移入してる。
結末がどうなるのか知りたくてたまらないのに、終わらせたくない。
読んでるコチラのココロが、ぶらんこの様に揺れ続ける。

いしいしんじ氏の名前は、故中島らも氏との共著「その辺の問題」で
知っていたが、コレ程までのストーリーテラーとは知らなかった。
淡々として平易な文章だから、ついスルスルと読み進めてしまうけど、
途中から「アレ?コレ、ちょっとおかしいぞ?」って気付いて、
それからは「え?コレ、すごくない!?」って冷静に興奮してた。
正直に言って、かなり打ちのめされたよ。物語の切なさに。
フィクションだと分かってるよ。分かってるハズなのに、このザマ。
泣こうと思えば、今スグにでも泣けるけど、泣いちゃいけない話。
なんか、感情移入させられ過ぎて、ちょっと悔しかったりもする。
詳しい内容については、いつものコトながらご自分でご確認下さい。

多分この本って、人に強くオススメするたぐいの本ではないと思う。
ただ、いつの日か、あなたが目に見えない引力によって
手繰り寄せられるように、この本を手に取るコトを願うばかり。