9:15A.M.

石段で順番待ちだ。すでに終えた若者がブルブル震えていた。

お神酒の入った紙コップを持つ左手が左右に小刻みに揺れている。

低体温症になってるんじゃないのか、、

オレも一度だけあんな風になったことがある。

もう十年あまり前のことだ。富山湾から立山の雄山まで走る

レースに出たときに、標高2500mほどの室堂で制限時間にあと少しで

間に合わなくて、8月の終わりだというのに気温が3度ぐらい

まで下がり、冷たい雨にぬれ続けていたときだった。リタイヤした後に

飲んだコーヒーのカップを持つ手の震えが止まらなかった。

 

オレの後ろには相棒、その後ろにはカメラをぶら下げたS嬢がいる。

その下に着てるの?と彼女に聞く。

水着ですよ、、

なーんだ、やっぱり。

ここまできても、頭のなかは邪念だらけなのだ。

 

いよいよ自分の番だ。

水を胸にかけたり、首筋にかけたり、顔を洗ったりして気合を入れる。

心頭滅却すれば水もまた温し、、というわけにはいかない、、

ここで氷柱が落ちてきたら、脳天唐竹割りだんべな、、

合掌礼をして滝に向かう。

家内安全、家外安全を祈願。

終わって、滝に合掌礼。

紙コップの酒を飲む。少しは清められたかなぁ、、。