⚫︎誘惑

 

私が"家庭"という世界を

居心地よく感じれる人間だったら

こうなることはなかったのかもしれない。

 

居心地の悪さや、理不尽さ、思い通りにいかないことに目を背けたくなって

"外"の世界にばかり目を向けるようになり

良くも悪くも

今まで狭い世界で生きていたことに、気付いてしまった。

 

 

"結婚"を目標にしていたため

自分はどんなことが向いているのか

どんな人間なのか

何がしたいのかを知らないことに気付いた。

 

それを知りたくて

色んな本を読んだり

20代で一度はハマるだろう

自己啓発系のセミナーに参加もした。

 

 

 

それは旦那にとっては

全く嬉しくないことだった。

 

 

 

束縛の強い人で

ミニスカートを履いて外に出るな、と服装について文句を言うほどで

新しい男性との出会いがある場所へ行くことをとても嫌がった。

 

 

昔だったら嬉しかった束縛もヤキモチも

今やもう、苛立ちの原因にしかならなかった。

 

私はそんな旦那に、あなたもしたいことしていいんだからと

諭しながら出掛けていた。

 

 

 

そんなある日、自己啓発系のセミナーに参加し

1人の男性と知り合った。

 

私より8つ年上、家庭を持っている人で

旦那とは全く違う要素を持っている人だった。

 

年のわりに若く見えて、

明るくて、気前が良くて、社交的、

何より大人だった。

 

 

お互いフランクな性格からか

意気投合しすぐに仲良くなった。

 

 

普段会社の飲み会や、旦那とは行かないような

素敵なお店に連れていってもらったり

彼の友人との集まりに招いてもらい、色んな会話を聞くうちに

私の世界はどんどん広がっていった。

 

 

何人かで会うこともあったが

2人で会うことも増えた。

 

私の旦那との悩みをよく聞いてくれ

アドバイスをくれた。

 

 

私も彼の話しを聞いているうちにわかったことがある。

 

彼は家庭でも悩みはなく

順風満帆な生活を送っているように言っていたが

 

違ったようだ。

 
 
 

私たちには、共通の"悩み"があった。

 

 

 

家族としての愛はあるが

もう相手に恋していないこと。

 

 

でも恋人を求めていること。

 

 

それにお互いが気付いてから

どんどん心の距離が近づいているのがわかった。

 

 

 

私は必死で抑えた。

頭では理解している。

 

 

 

"私も彼も結婚している"

 

 

 

抑えれば抑えるほど

それに反して惹かれ合っていった。

 

 

 

 

ある日、彼が真剣な顔で私に言った。

 

 

 

「好き」

 

 

 

その一言で

必死で止めていた気持ちのストッパーが外れてしまった。

 

 

 

「私も」

 

 

 

そう答えた。

 

 

 

それから、お互い現実に背を向けたまま

期待していたような甘い時間を

1年半ほど過ごした。

 

 

 

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